I-Method
躓きの石(中) |
2011年6月23日 |
ガレキ類の撤去は、東北地方の自治体への取材や、現場を見た印象では、6月初 旬で2割程度の進捗率だった。自治体により大きな格差があり、宮城県南部の名取 市や仙台市では3割以上進んでいる印象だが、北部の石巻市では1割に満たない。 岩手県の三陸海岸では、ほとんど撤去が終った大槌町から、まだ未着手同然の陸前 高田市まで格差がさらに大きい。 災害廃棄物の撤去は、市町村発注の工事として進められているため、地元の建設 業協会を介して、地場の中小の工務店が受注している。しかし、工務店は廃棄物の プロではない。このため市町村の仮置き場に持ち込まれている廃棄物は、ほとんど が未分別のミンチ(混合状態のガレキ)である。ミンチはそのままでは破砕も焼却 もできないため、再分別が必要になるが、長期間保管したミンチは腐敗によって性 状が変化し、分別が困難になる。 環境省は災害廃棄物をできるだけリサイクルする方針を打ち出しているが、現場 を見るかぎりリサイクルどころか焼却も難しい状態のものが大半である。焼却して 燃えがらが50%残ったとしてもかまわないと公言する自治体もあるが、早めに分 別しておけば、その後の処理はずっとスムーズに進む。 法律上は災害廃棄物は一般廃棄物となるが、現場で発生している廃棄物の実際の 性状は建設系産業廃棄物に極めて近いものであり、通常の意味での一般廃棄物に分 類できるもの(寝具、家具、什器、家電など)は量的にはわずかだ。 このため千葉県旭市ではいち早く産業廃棄物処理業者に協力を要請し、一般廃棄 物を産業廃棄物処理施設で処理できる特例を適用して、迅速な処理を図った。この 結果、リサイクルされているものも少なくない。 仙台市でも仮置き場の管理を産業廃棄物処理業者に発注している。このため仙台 市の仮置き場では廃棄物の分別や火災対策、地下水汚染対策などの管理状況が他の 市町村に比較して格段によい。ただし、仙台市では旭市のように産廃施設に持ち込 んでの処理まではしていない。 災害廃棄物の発生量は仙台市で通常時の一般廃棄物23年分、石巻市では100 年分以上というが、全国の産業廃棄物の年間発生量は4億トンであり、岩手県から 千葉県までで合計約3千万トンと推定される今回の震災廃棄物も、産廃廃棄物と比 較すれば単純計算で全国の1か月分以下、東北地方の1年分以下である。それなの にどうして産廃業者は外されているのだろうか。 環境省は全国産業廃棄物連合会に対して3月14日には協力要請し、同連合会は 翌15日に協力可能との回答をしている。しかしこの要請は26団体に対して形式 的に出されたものであり、意向確認程度の内容である。実際に産廃処理業者に処理 を委託するかどうかは、各自治体の判断に委ねられており、環境省が産廃処理施設 のキャパシティとノウハウを生かして災害廃棄物の処理を行っていくという基本方 針を打ち出したわけではない。 災害廃棄物は市町村が一般廃棄物として自ら処理するのが原則であり、委託処理 はそもそも例外的であるため、一般廃棄物を処理する民間処分場はもともと多くな い。加えて産業廃棄物処理業者は県や政令市・中核市の許可業者であるため、東北 地方の市町村にとっては、日ごろ公共事業を発注している公務店に比べると、産廃 業者は地元にあっても地元業者という印象が薄く、むしろ迷惑施設扱いだった。こ のため災害廃棄物の処理に産廃業者を関与させることは、今のところ限られた自治 体の取り組みとなっている。せめて復興のために地元業者への発注を優先したい市 町村の思惑もあり、産廃業者の潤沢な施設能力と人材と知識は十分に生かされてい ないのである。 産廃業者が外される中、産廃業者とつながりの深い環境系コンサルタント業者は 活発な動きを見せている。被災市町村にガレキ類の処理のスキーム作りについて営 業攻勢をかけているのだ。こうしたコンサルは地元にはないため、県外業者への発 注にも抵抗がない。関東はもちろんだが、関西の業者の進出も目だっている。10 年目に大きな話題になった青森岩手県境不法投棄の処理スキーム作りにも関西の産 廃業者がコンサルとして関与した。だが、ガレキ類の撤去と処理という単純な作業 のために、県も市町村もバラバラにコンサルタントにスキームを作ってもらうこと に費用対効果があるとは思われない。国や県のスキームが使いものになるなら、市 町村ごとのスキームは不要なのだが、残念ながら国や県のスキームにはきめ細かさ が足らない。 宮城県が発表したスキームは、市町村が設置する一次仮置き場に1年以内にガレ キ類等を移動、焼却炉と破砕機を設置した県の二次仮置き場に再移動して、3年以 内に処理を完了するというものである。仙台市のスキームもこれと類似している が、県に委託しないので、仮置き場に一次と二次の区別はない。 宮城県と仙台市が専用処理施設の建設をスキームの柱としているのに対して、岩 手県では大船渡市にある太平洋セメントなど、県内の既存の大規模施設の活用を基 本としており、不足分は県外の施設に協力を要請し、それでも不足する分は最終的 に県又は市町村が施設を新設しようと考えている。 宮城県と仙台市のスキームは自己完結的で見栄えがするが、費用と時間がかか る。岩手県のスキームは他力本願だが、施設建設費がかからず迅速な処理が可能で ある。ただし、太平洋セメントのキルン炉はまだ復旧中であり、災害廃棄物の燃焼 試験も行っていないため、結果的に岩手県は様子見になっており、何もやっていな いという印象である。このため具体的に動き出した宮城県と仙台市の取り組みが今 のところは目立っている。 岩手県と宮城県がそれなりの方針を示しているのに対して、福島県では放射性廃 棄物の処理方針が固まらず、動きが取れない。 環境省は5年間で100ミリシーベルト以下、1年間で50ミリシーベルト以下 のガレキ類は、災害廃棄物として処理できるという案を示したが、これは原子炉等 規制法の現行のクリアランスレベル1年間に10マイクロシーベルトの2000倍 の基準である。当然、環境団体は猛反対しているし、半減期30年のセシウム13 7が10分の1になるには100年かかるし、放射能がゼロになるまでには数万年 も管理が必要になる。そんな放射性廃棄物を受け入れる民間施設はないだろうか ら、公共処分場を新設することが必須である。 福島原発の事故対応の遅れについて、いまさら考証してああすればよかったと悔 やんでも仕方がない。今は事故の収束と放射能を帯びた廃棄物の処理に全力を傾注 しなければならないが、クリアランスレベルを引き上げたからといって、他の災害 廃棄物と同列に扱い、放射性廃棄物の処理を自治体任せにすることは絶対に避ける べきである。放射性廃棄物を一般廃棄物(家庭ごみ)として自治体に処理させるの は法的に考えてもおかしい。そうかといって大気中や海水中への放出物質は産業廃 棄物でもないので、東電に処理させるのも法的に疑問がある。どちらにしても汚染 者である東電に財源的な負担を求めるのは原子力損害賠償法上当然であるが、東電 の負担能力にも限界がある。 民主党幹部がいったん出してひっこめた災害廃棄物の国直轄処理だが、放射性廃 棄物についてこそ国直轄で行うべきである。放射能の専門家がいない環境省だけで は到底無理な事業なので、経済産業省と文部科学省から人材を集めて、放射性廃棄 物を処理する専門組織を設置してあたる必要がある。 |
渋柿庵主人 |