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渋柿庵日乗 七八


震災ガレキ処理の行方

2011年11月8日
 東日本大震災から半年が経過し、ガレキ処理に新たな動きが出てきた。これまで
は一次仮置場への移動を最優先にしてきたが、ようやく処理が本格的に始まった。
仙台市では、仮設焼却炉が稼働を開始した。宮城県に処理を委託した石巻市や気仙
沼市などでは、処理を受注するゼネコンが決まった。太平洋セメント大船渡工場は
被災した2000トン級セメント焼成キルンを廃棄物専焼炉にして、大船渡市や岩
手県から処理を受注することとした。宮古市から東京都へのJR貨物による広域搬
出も始まった。このように自力処理、委託処理、広域処理がそれぞれに形を現した
わけだが、このばらばら感は何故だろう。
 国に指導力があればと期待するのは気の毒だ。環境省には自治体に代わってガレ
キを処理する実力なんてない。8月に成立したガレキ国直轄処理法は、いまのとこ
ろ空砲ならぬ空法に終わってしまいそうだが、放射能汚染で動きがとれない福島県
だけは環境省に頼みたいようだ。
 国が頼りにならないかわりに、一見、県や市町村ががんばっているようにも見え
る。しかし、ガレキ処理費用の9割以上を国庫補助金に頼らなければならないのだ
から、地方分権と言うには程遠い。

 莫大な量のガレキを前にして、県や市町村がさまざまな取り組みを試す中で、仙
台市のスキームは先行事例あるいは模範事例として、メディアからも学者からも学
会からも頻繁に取り上げられている。もてはやされているといってもいい。これが
ガレキ処理の決定版だと言わんばかりに、仙台市の取り組みを丸ごとマニュアル化
している学会もある。

 実は仙台市の取り組みは、東北地方の他の市町村とはかなり違った完全自立主義
を貫徹しており、他に類例がない孤立種である。これは仙台市のガレキ処理チーム
が、他に範を求めずに自律的に編み出した孤高のスキームであることを意味してい
る。仙台市に匹敵するような独創的なアイディアを実行している自治体は、東北地
方にはほかに無い。東北地方以外では、わが千葉県の旭市がユニークな取り組みを
いち早く実行している。旭市が仙台市ほど注目されていないのは、東北地方でない
ことが大きいが、県内産廃処理業者にすべてを委ねるという完全自立主義の対極の
単純明快な他力本願スキームのため、学会や学者が理屈をこねようがないこともあ
る。その他の自治体は、国、県、他市町村の意向や動向を見ながらという日和見主
義に終始している。



 仙台市は、海岸公園に3つの大規模仮置場(合計約100ヘクタール)を設置
し、その管理業務を産業廃棄物処理業者に委託することにした。そのおかげで分別
保管など仮置場の管理状況が他の市町村と比較して格段に優れている。この点に関
しては仙台市の取り組みは成功したと言える。
 残念ながら、仮置場を誰が管理するのがもっとも適切かを真摯に考えたのは、仙
台市だけで、この取り組みは他の市町村には広がらなかった。その結果、名取市、
石巻市、気仙沼市などの仮置場では、管理の不十分さから大規模火災が相次いで発
生した。国や県がどんなに立派な指針やマニュアルを作ったところで、プロの業者
が管理していない現場はついてこられなかった。

 そうは言っても仙台市だけで青森岩手県境や四日市などの史上最大級の不法投棄
現場に匹敵する135万トンの震災廃棄物が発生しており、それを一年間で仮置場
まで移動して保管するのだから、リサイクルを前提に分別できる廃棄物の割合はわ
ずかであり、大半は可燃物、不燃物という大きな括りになっている。
 仙台市の仮置場を見ると、金属くずは売却されているが、コンクリートやブロッ
クなどのガラは仮置場の造成に使われている。良質の木くずはバイオマスボイラー
の燃料にできそうな性状だが、今のところ燃料化は具体的に動いていない。津波に
流された自動車や家電は、部品取りができないのでリサイクルする価値がなく、シ
ュレッダーにかけるしかない。
 このように仙台市の分別の取り組みは立派だが、手間に見合う見返りを得られる
かは微妙だ。火災のリスクもゼロではなく、小規模火災は頻発している。

 仙台市の取り組みが広がりを見せないのは、法律の無意味な区分にとらわれてい
るからである。災害廃棄物は一般廃棄物に区分されるが、法律上、一般廃棄物に固
有の積極的な定義はない。産業活動に伴う廃棄物=産業廃棄物以外の廃棄物が一般
廃棄物と消極的に定義されているのだ。災害は産業ではないが、災害復旧事業は産
業活動なのだから、災害廃棄物を産業廃棄物に区分してもかまわないし、道路や橋
を復旧するための公共事業に伴って発生する廃棄物は産廃になっている。ところ
が、同じ公共事業でも、ガレキ撤去事業の廃棄物は一般廃棄物になる。

 実は産廃業者が臨時に一廃の処理を受託できるという特例がある。法的には1ヶ
月前の通知が必要だが、今回の震災では通知は当日でもよいとされている。千葉県
の旭市では、この特例を使って、約11万トンの震災廃棄物の処理を県内産廃業者
72社に委託している。今後進展する東京都などの広域処理協力においても、特例
委託が使われることになる。
 しかし、この特例は東北地方ではほとんど使われていない。仙台市の取り組み
も、産廃業者に一般廃棄物の処理を委託しているわけではなく、あくまで仮置場の
管理業務を委託しているにすぎない。しかし、それすら他の市町村では進まない。
一般廃棄物と産業廃棄物の業界の垣根はおいそれとは壊せないようで、産廃最終処
分場に燃え殻の処分を委託する際にも、仙台市は臨時に一般廃棄物処理業の許可を
出すことにしている。



 仙台市は、10月から稼働を開始した焼却炉を、委託処理ではなくリース契約に
よる仙台市の施設として運転している。一般廃棄物は市町村の自力処理という原則
に従ったといえばそれまでだが、このような取り組みは他の市町村では見られな
い。
 宮城県内の他の市町村はすべて県への委託処理を決めた。処理を受託した県は、
仙台市のように自力で焼却炉を運転するのではなく、ゼネコンに再委託している。
さらにゼネコンは自力で事業を実施するのではなく、さまざまな事業者に再々委託
することになる。
 仙台市の完全自立主義の取り組みは、処理施設を早期に立ち上げるのに効果があ
った。仙台市の仮設焼却炉が10月に稼働開始したのに対して、宮城県に委託した
石巻市の仮設焼却炉は来年3月稼働開始予定である。県の事業は仙台市より半年遅
れている。
 仙台市では、まだ撤去率が20%程度だった6月に早くも破砕処理や選別処理に
着手し、撤去しながら処理も同時並行で進めてきた。石巻市など宮城県に委託する
ことにした市町村では、撤去は市町村、処理は県という役割分担で、県は9月にや
っと受注するゼネコンの入札を実施した。撤去が終わる年度末、すなわち震災から
1年後に本格的な処理が始まるスケジュールになっており、スピード感が感じられ
ない。

 岩手県の市町村では、県委託処理と自力処理が半々に割れた。大船渡市の担当者
は自力処理を選択した理由を「県に頼むと遅くなるから」と話していた。
 しかし、大船渡市の自力処理は、津波の被災から応急復旧した太平洋セメント大
船渡工場への委託処理を前提しており、仙台市のような完全自力処理は考えていな
い。
 ゼネコンやセメント工場などの事業者に外注しない仙台市の完全自力処理は、今
のところ成功しているように見える。しかしこれは政令指定都市の実力をもって可
能なスキームであり、他の市町村が追随できる範例にはならない。



 震災から半年で仮設焼却炉を稼働させた仙台市の完全自力処理の取り組みは、広
域処理協力への門戸を最初から閉ざしてしまったという負の面もある。
 広域処理は放射能汚染拡散の懸念から遅れていたが、今後、急速に進展するかも
しれない。岩手県と宮城県では、放射性物質の管理体制さえ整えば、一挙に広域処
理が加速し、自力処理のアドバンテージが逆転されるかもしれない。福島県は放射
性物質の管理がネックとなり、広域処理は難しいようである。
 11月2日、岩手県の宮古市から東京都へのJR貨物によるガレキの搬出がはじ
まった。東北地方以外への搬出は初めてである。産廃処理施設4社(有明興業、リ
サイクル・ピア、高俊興業、リーテム)で破砕処理をしたのち、有価物は売却、可
燃物は東京臨海リサイクルパワー(東京電力子会社)で焼却され、燃え殻は東京都
中央防波堤(管理型最終処分場)に埋め立てられる予定になっている。
 これを皮切りに首都圏や関西圏などの処理施設への広域搬送が本格するかもしれ
ない。ただし、協力を表明している自治体は今のところ、11都道府県48市町村
であり、他の自治体は放射線管理への不安から協力を拒否している。実際には、宮
古市の放射能汚染は東京都より低いくらいで、いわれなき風評である。

 東北地方の震災廃棄物は宮城県で平年の約30年分、石巻市で平年の約100年
分と発表されているが、これは一般廃棄物を分母にした誤解を招く表現である。
 一般廃棄物は平常時は家庭ごみとほぼ同義である。家庭ごみは1人1日1kg排
出される。3人家族で1年1トンである。今回の震災廃棄物は大半が建造物のガレ
キである。戸建の住宅の重量は1棟平均30トンなので、家一軒が津波で流されれ
ば3人家族の30年分、単身世帯なら100年分のガレキが発生する。さらに住宅
だけではなく、学校や工場まで全滅している地域が多いのだから、家庭ごみをベー
スにしたら30年分、100年分という数字が出るのは当たり前で、これは数字の
トリックにすぎない。

 震災廃棄物の大半は平年なら建設系産業廃棄物として排出される性状のものであ
る。東北3県の震災廃棄物約2200万トンも、全国の解体系産業廃棄物発生量約
6000万トンを分母にすれば、実は4カ月分程度にすぎない。
 つまり、全国の産廃処理施設を連携させる広域静脈物流のネットワークを構築し
たほうが、新たに施設を建設するより早いし、処理の質も高い。建設系産廃処理施
設のリサイクル率は70%以上あり、90%以上の施設も珍しくない、
 しかしながら環境省は広域協力を求めながら、具体的な広域物流ネットワークを
構築できなかった。放射能汚染の問題が深刻化する中、受け入れをためらう自治体
が多く、処理を急ぐ仙台市には自力処理の選択肢しかなかった。
 環境省は廃棄物処理法によって処理できる放射線量を8000ベクレル以下と
し、後に10万ベクレルと修正したが、この基準では広域処理は進まなかった。こ
のため、宮古市と東京都は1kg1時間0.01マイクロシーベルト以下という自
主的な管理基準を決めた。



 ガレキ処理の主流となった地元処理は成功するのだろうか。その行方を占うた
め、10月21日、仙台市の海岸公園仮置場に設置された3基の焼却炉を視察して
きた。今回の震災では初めて稼働を開始した本格的な処理施設だ。
 現場を見た第一印象は、3年で使い切ってしまう仮設炉のため、中途半端さを否
めなかった。
 3基の内訳はJFEエンジニアリング製90トンロータリーキルン(新品、10
月稼働)、日立造船製90トンチェーンストーカー(中古、10月稼働)、川崎重
工業製300トンロータリーキルン(中古、12月稼働予定)である。

 井土地区の仮置場では日立造船製の90トンチェーンストーカーが稼働中だっ
た。真っ先に燃え殻を見てみると、驚いたことにまったく燃えておらず、木の地肌
すら見えていた。この炉は選択ミスだったとしか言いようがない。
 チェーンストーカーは、戦車のキャタピラのような鋼鉄製の炉床を水平にゆっく
りと動かし、チェーンの隙間から空気を送り込んで固形物を燃やす炉だが、震災廃
棄物は泥まみれなので、空気がうまく供給されないようだ。
 不完全燃焼で大量に発生しているに違いない一酸化炭素は、二次燃焼室でアフタ
ーバーナーを炊いて消化している。重油消費量は1時間100〜300リットル
で、10キロリットルタンクが2日で空になるそうだ。そのおかげで排ガス中の一
酸化炭素は驚くなかれ、1PPM以下だった。しかし、もしもアフターバーナーを
炊かなかったら1万PPM(1%)を超えているかもしれない。ちなみに一般的な
大型焼却炉は、アフターバーナーを炊かない状態で100PPM以下にコントロー
ルされている。
 どうしてこんなことになったのか。3年で使い切ってスクラップにしてしまうと
いう前提で、中古炉を安く買い叩いたのだろう。その結果、役立たずの燃えない焼
却炉ができてしまった。仙台市と日立造船とリース契約を締結している。燃えなく
ても毎日90トン入れなければ契約違反になる。そのため、炉の実力に見合った燃
やし方に切り替えられないのだろう。
 廃棄物の滞留時間は2時間程度と現場の監督者から聞いたが、完全燃焼させるに
は10時間くらい必要ではないか。もしくは投入量を5分の1くらいにして、空気
が通るように薄く広げる必要がある。つまりこの炉の正味の実力はせいぜい1日2
0トン程度である。

 蒲生地区の仮置場では、JFEエンジニアリング製の90トンロータリーキルン
が稼働中だった。中古炉ではないが最新型とも言えない、新古品のような炉だっ
た。日立造船と能力表示は同じだが、この炉は額面どおりの能力が出そうだ。
 燃え殻は一見したところ燃え切っているように見えた。だが、焼却しているガレ
キに砂が多く含まれているため、重量比では半分にしかなっていないそうだ。

 荒浜地区の仮置場では、川崎重工製の300トンロータリーキルンが建設中だっ
た。これは中古炉だ。巨大なキルンと排ガス浄化設備の大きさがつりあわず、寄せ
集め感が否めない。フル稼働させたら塩素を除去できるのか心配だ。

 東北地方ではこれからいくつも仮設焼却炉が建設される予定になっているが、焼
却炉と廃棄物の相性や排ガス浄化に気を配り、もしも同型炉が稼動中なら事前に実
証試験を行って、不適当な炉の形式は最初から除外すべきである。また、燃えない
泥や砂を落とし、含水率を下げて燃えやすくする前処理工程を設けるべきである。
さもないと、せっかく焼却炉を設置しても、燃えにくい廃棄物をむりに燃やすため
に重油を大量に消費し、管理型埋立処分場が必要な大量の燃えがらやばいじんを無
駄に作るだけになってしまいかねない。

 リサイクルの取り組みも建前だけは謳われているが、大規模仮置場での大量保管
を選択してしまった東北地方の災害廃棄物を今さらリサイクルすることは難しい。
リサイクル率を高めるに小口分散処理、広域分散処理の有効性を訴える専門家はほ
とんどいなかった。
 仮置場の管理では現場の見識不足から未分別の廃棄物を大量に積み上げて失敗す
る市町村が目立った。処理が本格化するこの時期に、もう一度処理スキームの全体
を総点検する必要がある。さもなければ仮置場の失敗をまた繰り返し、後に禍根を
残す事例が増えてしまうだろう。

破砕機(井土地区) フィンガースクリーン(井土地区) 川崎重工業製300トンロータリーキルン(荒浜地区、建設中)
日立造船製90トンチェーンストーカー(井土地区) チェーンストーカー本体、手前は押し込みブロアー チェーンストーカーの燃え殻(よく燃えていない)
JFEエンジニアリング製90トンロータリーキルン(蒲生地区) ロータリーキルン本体手前は押し込みブロアー ロータリーキルンの燃え殻(よく燃えているが砂が多い)
渋柿庵主人
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