I-Method

渋柿庵日乗 五


ドクターヘリ

2010年1月12日
 「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」2ndシーズンの放送が1月11日からフジテレビ系ではじまった。(右のバナーのフジテレビサイト参照)
 千葉県印旛村にある「日本医科大学附属千葉北総病院」に2001年から配置されているドクターヘリをモデルとしたドラマである。
 1stシーズンのオープニングでは、銚子市の屏風ヶ浦上空からヘリが降下する映像が使われていた。太平洋に面した50メートルの海食崖の上は、風力発電の白いプロペラが数十も回る国内有数のウィンドファームとなっていた。
 実はこのあたりは、ドクターヘリがはじめて飛んだ2001年ごろ、私が所属した海匝支庁(かいそうしちょう)と不法投棄業者の壮絶な攻防戦が繰り広げられていた。不法投棄業者は銚子市から撃退することができたが、今も風車の周辺には過去の不法投棄現場が残されている。
 この映像だけで、このドラマは感慨深かったが、残念ながら2ndシーズンのオープニング画像は、抽象的なCG画像になってしまったみたいだ。

 海匝支庁に赴任する前年度、私は医療整備課でドクターヘリ導入の担当者として病院や消防本部を奔走していた。予算要求案も私が作ったが、課長は全国に先駆けて一号機を導入する必要性は薄いと反対、部長は賛成という板ばさみの状況となった。私はドクターヘリが救急医療のイメージリーダーとして地上搬送のレベルも向上させる心理的効果があることや、成田空港からの患者搬送の必要性を課長に訴え、財政課には欧米のドクターヘリの出動数と救命率を参考に、救命患者数の推計を提出した。
 最終的には初当選した堂本知事が導入を決断し、念願のヘリがテイクオフした。そのころ、産廃の前線に復帰していた私は、地上で不法投棄業者とのゲリラ戦を展開していた。ヘリが搬送した患者第一号が私の実家のある八街(やちまた)の方だと、ヘリを配置した病院の救命救急センター長から直接メールが届いたときは、因縁めいたものを感じて緊張した。
 心肺停止などの重篤な患者でも、人工呼吸や心臓マッサージなどの応急措置を続けながら30分以内に三次救急病院に収容すれば救命の可能性がある。ヘリの巡航速度は時速200〜250キロなので、30分で往復できる半径50キロメートルの円内がドクターヘリの守備範囲となる。千葉県全域をカバーするには2機必要だが、ようやく2機目のヘリが木更津市の君津中央病院に配置されることになった。奇しくもこの2機目のヘリが1機目のヘリを導入した堂本県政の置き土産になった。



 ドクターヘリは、ヘリを購入して病院に配置すれば実現するというものではない。学校のグラウンドなどのヘリの着陸ポイントを県下に数百か所も用意し、消防本部との迅速な連携をはからなければならない。主役として活躍するのはドクターとパイロットだが、地上の地味な体制作りも不可欠だ。ドラマを見ていると、消防隊員の方も映っているが、やはりどうしてもドクターが目立つようだ。
 このドラマには救急医療現場の臨場感がよく考証されていると思うが、まったく疑問点がないともいえない。ドクターヘリは出動要請から4分以内に離陸するのが欧米の標準だが、「うちの病院はそれ以上をめざします」と、当時の救命救急センター長は私に約束してくれた。
 そのため、要請と同時に整備士がエンジンを始動し、パイロットがスタンバイする。当番のドクター1名、ナース2名は、ヘリポートまで走って10秒のスタッフルームに終日待機しており、消防からの情報を直接聞いて追加する医療機器や薬品を瞬時に選択し、ヘリに向かって全力で走る。医療スタッフが飛び乗ったら、ドアを閉める時間も惜しんで飛び立つ。出動に1秒手間取れば、それだけ救命率が落ちるのだ。
 ドラマでは、ヘリに乗る当番となった医療スタッフも病棟勤務していて、オンコール(呼び出し)でヘリに向かう。そのほうがドラマチックだが、それでは間に合わない。それに病棟勤務していたら、引継ぎをせずに病棟を離れるわけにはいかない。4分で離陸するには、当番の医療スタッフ3名には仕事をさせず、終日スタッフルームにスタンバイさせておかなければならない。大学付属病院や公立の大病院のようにスタッフに余裕がないと対応はむりである。
 看護士の数が少ないのも気になる。ドラマには個性的なドクターがたくさん登場するが、看護士はキャラが立てにくいのか、目立った活躍をするナースは1人だけだ。ドクターヘリが配置される救命救急センターであれば、ナースはドクターの2倍以上、患者数の3倍以上必要で、それでも足らない激務だ。

 ドクターヘリを支えているのはドクターとパイロットだけではない。病院には大勢のナースがいるし、消防本部には指令がおり、現場には救急隊員がいる。さらにヘリが学校のグラウンドに着陸するとき、土ぼこりが上がらないように水撒きをしてくれるジャージ姿の先生もいる。そんな何百人もの人に支えられたドクターヘリが、たった一つの命を救うために全速力で飛んでいる。



 ドクターヘリの雄姿の映像はドラマに譲って、当時と今の地上の写真を野暮だが掲載しておく。



左上 屏風ヶ浦近くのかつての常習不法投棄現場(2001)
右上 同じ現場の現在。現場は木杭で封鎖され、遠くには風力発電の白いプロペラが見える。
左下 かつての不法投棄常習地帯を貫通する現在の農道と、白いプロペラ。
右下 コードブルー1stシーズンのオープニングでヘリが上空を飛んでいた屏風ヶ浦の不法投棄(2001)

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渋柿庵主人
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