I-Method

渋柿庵日乗 四


今日は成人式

2010年1月11日
 朝から船橋駅前で、和服姿の女性を大勢見かけたので、そうか、今日は成人式だとあらためて気付いた。天気はあまりよくない。成人式の日がくるたび、雨が降らないといいなと思いながら空を見上げる。雨の日に和服で歩くのは面倒だろうし、せっかくの和装に洋傘は合わない。でも一番心配なのは、和服の絹地が泥跳ねで汚れると、なかなかクリーニングが難しいこと。どうせ他人事なのに、なぜか毎年、空を見てしまう。
 幼いころ、母が私塾の裁縫所をやっていて、自宅に何十人も生徒が通ってきていたので、特別に勉強したわけではないが、和服にはなんとなくなじんできた。それで和服を着ている人をみると、つい「ああ、これは手絞りだな」とか、「ああ、これは紬(つむぎ)だな」とか、余計なことを思ってしまう。
 デパートに買い物に行っても、このごろは仕立ての悪い服が増えたのが、とても気になる。とくにレディースはひどい。いい加減に裁断して、柄合わせも考えずに縫い合わせたくらいならまだいいほうで、布地の縦糸と横糸の張りの違いを考えないで、縦と横をでたらめに縫製すると、着心地が悪いし、すぐに型崩れして着られなくなる。縁かがりのないカットソーなどはもっと悲しくて、3回も着るとバラバラに解体してしまう。おなかの中心で身頃(みごろ)を縦に縫い合わせたワンピースなんかは、食べ過ぎたら縫い目が割れてたいへんなことになる。
 中国製はよくない、やっぱりメイドインジャパンだと言うが、仕立てに関しては、むしろメイドインチャイナのほうがずっといい。たぶん知識のある人がちゃんと指導しているのだと思う。日本の縫製工場には指導者がいないのか、それとも指導しても無視されているのか、まともな仕立てができない。それに若手のデザイナーは布地や仕立てのことまで勉強していないのかと疑ってしまう。
 日本の戦後の復興が、繊維産業から始まったことを知らない人はいないと思う。繊維で稼いだ外貨で、鉄鋼石を買い、トランジスタを開発し、そして最後にはコンピュータ産業や自動車産業へとつながっていった。
 アパレルというのは、生活に一番密着した産業だし、伝統的なものから国際的なものまで、デザインのバラエティーは車や家電の比ではなく、国民の文化レベルを一番反映する産業だ。それがこのていたらくでは、なんだか他の分野のメイドインジャパンの未来まで心配になる。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ
渋柿庵主人