I-Method

渋柿庵日乗 六


失敗した有料バイパス(上)

2010年1月12日
 面白いというか、つまらないというか、結果的には変なことを考えさせられた会議があった。前半は風邪薬の副作用もあって、ほとんど居眠りをしていて、議論を聞いていなかった。どれくらい聞くに忍びない会議だったかは、残念ながら「職務上知りえた秘密」にあたるので公表できない。そこで社会人セミナー風のマーケッティング論の問題に作り変えてみる。

 某県庁が国道の渋滞緩和のために10億円の予算で有料バイパス整備に着手した。ところが、リーマンショックの影響でバイパスの先にできるはずだったアウトレットモールの出店計画が先延ばしになった。それでも道路事業だけは継続された。よくある話だ。
 いざ開通してみると案の定利用者が伸びない。なんと1日たったの50台。補助金を出した国土交通省からは大目玉だし、会計検査院からも指摘を受けそうな大失態となった。

 そこでいまさらながらに利用者の実態を調査し、緊急会議を招集した。
 会議では、こんな数字が出てきた。
 @国道の通行車両は、渋滞が発生する朝の通勤時間帯の4時間で5000台、その80%は既存の工業団地に向かう通勤車両。1日の通行車両は1万台。アウトレットモールが出店すれば1日2万台になるはずだった。
 A有料バイパス利用者は、アウトレットモールが出店しなくても、通勤時間帯に、5000台の10%の500台と見積もっていた。ところが、実績は予想の10分の1の50台、通行車両のわずか1%だった。
 B工業団地の通勤利用者を対象にアンケート調査をした結果、バイパスを利用したことがない人が50%、利用したことがある人のうちでは、週2回の利用がもっとも多く、利用者したことがある人の10%を占めた。
 Cバイパスを利用しない理由として、距離がたった5キロなのに料金が200円は高いという意見が一番多かった。

 以上の結果から、社会実験として、3ヶ月間限定で料金を200円から100円に50%OFFした。これで利用者倍増をもくろんだが、利用者は10台増えて60台になっただけだった。もはや打つ手がない。

 社会実験期間の終了がせまり、再び会議が招集された。このまま利用者が伸びなければ、年間1千万円かかる料金所を維持する費用が出ない。無料開放できれば一番いいのだが、補助事業で建設した有料道路であるため、補助金5億円を国に一括返還しないと全日無料開放はできない。(夜間無料開放は可能だ。)
 いったん撤収を表明したアウトレットモールだが、用地は確保されているので、景気が回復すれば他社を含めて出店する期待がないともいえない。
 会議は事業継続を前提にして、「利用促進のチラシを配ってみよう。企業に利用促進のお願いにまわろう」といった事務局提案の、なんの工夫もない対策に対する質疑がだらだらと続いた。だが、チラシならもうすでに何千枚もムダに配ったのだ。座長の教授にも名案はないようだ。

 さて、あなたなら、この八方ふさがりの会議でどういう提案をしますか。



 私の発言は、次回に紹介します。それを読む前に、どんな答えがありえるか考えてみてください。

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渋柿庵主人