I-Method

渋柿庵日乗 一○


田中康夫氏の思い出

2010年1月28日
 昨日の構想日本のパーティで、新党日本代表の田中康夫衆議院議員(前長野県知事)にお会いした。
 田中氏とは、産廃Gメン時代から面識がある。
 発端は、2001年、銚子市の不法投棄現場の証拠調査から、長野県の産廃処理業者の関与を突きとめたときだった。私のチームは現場を撤去させた後に、長野県の本社まで調査に行った。そのとき、検査に立ち会っていただいた長野県職員から翌日すぐに電話があった。
 「知事に報告したところ、石渡さんのところに帳簿検査手法の研修に行きなさいと言われました」というのだ。知事じきじきの命令だというのに、ちょっと驚いた。
 なんと、その翌日には、ほんとうに長野県の担当者2人が私の個人研修を受けに来た。私はテキストを用意して、4時間かけてI-Methodの原型となる会計帳簿検査手法を伝授した。
 さらには、長野県下の自治体職員の研修講師にも招かれた。まだ、産廃コネクションを出版する前のことである。公務員については、「人に頭を下げてるんじゃない、椅子に頭を下げてるんだ」というのがステレオタイプな見方だが、タレント知事と言われる人は、他人のタレント(才能)にも鋭敏なアンテナがあるのかと、ちょっと感動した。

 覚えている人もいるだろうが、おりしも長野県議会で田中知事の不信任案が可決され、辞職するか議会を解散するか、決断を求められている渦中の知事に挨拶することになった。これも当時有名だった県庁舎1階ロビーのガラス張りの知事室、通称パンダルームで、田中知事に初めて挨拶し、「脱ダム宣言」と書かれた名刺をいただいた。



 これで田中知事との縁は終わらなかった。
 産廃コネクションの出版後、いくらか私の名前も有名になったとき、田中知事側近から「都内で知事と会ってほしい」と要請され、土曜日だったと思うが、六本木に出かけた。
 田中知事は開口一番「長野県庁に部長の椅子を用意してお待ちしています」と切り出した。ヘッドハンティングだった。
 残念ながら、堂本千葉県知事(当時)に恩義を感じている自分としては、田中知事の申し出を受けることはできなかったが、光栄至極だと思った。

 不義理にしてしまったので、それきりの縁になっていたが、昨日のパーティで再会できて、ちょっとうれしかった。もっとも、田中氏は別格に大物だし、私のことを覚えてくれていたかどうかはわからないが、名刺交換をしたときは、ちょっとハッとしたような顔をしてくれた。このサイトの宣伝もしておいたが、閲覧してくれるかどうかはわからない。



 いま、前原国土交通相が、田中氏の脱ダム宣言を実践すべくというわけでもなかろうが、八ツ場ダム建設中止で戦っている。一昨年の秋になるが、私も現地の「やんば館」を訪れたことがある。
 現職公務員として、こういう高度に政治的な問題に対して、たとえ私見としてでもちょっとここで意見を述べられないのが残念だ。

 その代わりに、唐突に話題が変わるが、埼玉県の荒川ビオトープの話をしておきたい。
 脱ダム先進地のEUでは、コンクリートで改修された河川に自然(といっても擬似自然)を復元するビオトープ工法(近自然工法)が盛んだ。
 しかし、それに負けないのが荒川ビオトープだ。荒川は小さな河川だが、急流で有名で、実は氾濫原が日本一広い。そこに国土交通省が莫大な予算を使って、ビオトープの復元をしている。自然復元の一つの指標は、50ヘクタールもの餌場を必要とする猛禽類のサシバの営巣だという。サシバはとてもグルメな鳥で、好みの餌しか食べないので、たびたび話題になるオオタカなんかよりもずっと自然繁殖が難しいのだ。荒川ビオトープは破壊されてしまった自然を国土交通省が復元している先例だ。

 そういえば、ハワイのワイキキビーチだって、ビオトープ、つまり人工海浜なのだ。もう一つそういえば、明治神宮の森は、明治時代の日本の造園技術の粋を結集した人工林だ。隣接した山手線の大気汚染(当時は蒸気機関車)に耐えて、なんら手を加えなくても、何十年も先に安定した森になるように設計したという。実は日本こそ、ビオトープの世界一の先進地だったのだ。

 前原大臣には、ぜひとも荒川ビオトープの視察をしてもらいたいなと思って、こんなことを書いてみた。
 ちなみに、埼玉県には、「見沼田んぼ」というとてもすてきな自然が保全されてるところもある。ここはナショナル・トラストの聖地だ。

復元された荒川左岸の旧河道

埼玉県生態系保護協会提供写真
見沼田んぼ2号地

埼玉県生態系保護協会提供写真

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渋柿庵主人
荒川ビオトープのオフィシャルHPは国土交通省荒川上流河川事務所が開設しています。


荒川ビオトープや埼玉県内のナショナル・トラスト運動の詳細は、埼玉県生態系保護協会のHPに載っています。