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渋柿庵日乗 一三


うすにごり

2010年2月7日
 最近、うすにごりのお酒にちょっとはまっている。日本酒の場合は、無濾過と呼ぶことが多い。ろ紙を使ってこさずに、オリを沈殿させて除いたお酒だ。清酒のようにキリッとした切れ味はないが、複雑な雑味がなんともいえない。
 オリを一緒にボトリングしたにごり酒の場合は、まだ発酵が進んでいるので、どんどん味が変わっていく。最初は甘いのだが、発酵が進むと糖分が消化されて辛くなる。
 無濾過の場合は、発酵が進んでしまうことはないが、オリが劣化していくので、冷蔵庫で保管しなければならない。
 どんな銘柄がおすすめかと聞かれると困るが、関西の酒通のかたからいただいた能登杜氏(のととうじ)系の滋賀の酒蔵のうすにごりが、すてきに美味しかったのを覚えている。能登杜氏は三大杜氏集団(南部、越後、丹波)に対して、第四勢力として、最近人気が出ている杜氏集団で、味が濃いのが特徴だ。

 関東では、新潟や東北の辛口のお酒を好む人が多い。辛口のお酒は発酵が進んでいて原酒のアルコール度数が高いので水割りにしてある。そのため辛口になると同時に淡口(うすくち)になる。それを淡麗というのは半分は詐欺みたいなものだ。
 聞くところによると日本酒の酵母は、江戸時代に品種改良が重ねられた世界最高性能の酵母で、20度を超えてなお発酵するらしい。ワインの酵母は16度くらいで発酵が止まってしまう。日本酒でもワインでも、甘口にするときは、醸造アルコールを添加して糖分がなくなる前に酵母を死滅させる。
 うすにごりのお酒はあまり発酵を進めていないので糖分が残っており、水割りにもしていないので、淡麗とは正反対に甘くて濃い。私は辛口のお酒も甘口のお酒もどちらも好きだ。



 日本酒だけではなく、ワインにも、ビールにも、梅酒にも、うすにごりがある。醸造酒なら、どんなお酒でも、濾過しなければうすにごりになる。オリーブオイルにすら、無濾過がある。
 先週も、いきつけのお店で、うすにごりのスペイン産の微発泡ワインを、ハモンイベリコベジョータ(スペイン産の生ハム)をおつまみに飲んだ。ピンク色をした甘口のワインだった。もちろん高級ワインではない。
 1本何万円もするボルドーやブルゴーニュのヴィンテージもたまにはいいけれど、こういうワインのほうが、むしろ落ちつく。

 ワインと日本酒はぜんぜん違うはずなのに、うすにごりだと、なんだか似ているような気がしてくる。いや、むしろ、ワインと日本酒は、いろいろな面で共通点が多いお酒かもしれない。わずかな違いといえば、日本酒は長期熟成する技術があまり普及しなかったことだ。古酒もあるにはあるが、感心したものは少ない。
 ヨーロッパでは、ワインだけではなく、蒸留酒のブランデーやウィスキーでも、長期熟成技術が発達した。
 世界恐慌の時代に作られた70年物のバランタインを飲んだことがあるが、これがウィスキーかと信じられないくらいやわらかな味だった。どうしてヨーロッパのお酒は長期熟成にこだわるようになったのか、考えてみたら面白いかもしれない。

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渋柿庵主人