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災害廃棄物調査速報(その3)宮城県仙台市 |
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2011年5月8日 |
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東日本大震災に対する政府の対応の遅れが何かと批判されている。とくに東北3 県の避難所や医療機関への物資補給、医療・介護スタッフの補給、原発事故対応の遅 れは深刻だったようである。 被災者の救助や捜索の段階が収束し、道路・電気・上下水道・ガス・電話などの インフラが回復し、復旧から復興の段階に移って最初に問題になるのが災害廃棄物 の処理である。倒壊家屋のガレキや被災自動車が散乱したままでは復興事業を始め られない。 環境省は3月末時点で東北3県の災害廃棄物発生量の推計をとりまとめて発表し たが、それによると宮城県約1600万トン、岩手県約600万トン、福島県約2 90万トン、3県合計で2490万トンとなっている。これは阪神淡路大震災の 1.7倍であり、最も多い宮城県は、同県の一般廃棄物23年分に相当すると発表 された。ただし、4月7日の余震で被害はさらに拡大した模様である。 環境省はまた、災害廃棄物の処理が始まる4月初めまでには、主要な通達や指針 を出し終えた。水産加工品の海洋投棄を容認し、災害廃棄物を産業廃棄物処理施設 で処理する場合の規制(事前届出期間)を緩和し、倒壊家屋の解体や被災自動車の 仮保管場までの移動を所有者に通告せずに行ってもよいとする踏み込んだ内容にな っている。 また、3月末には市町村の災害廃棄物処理事業費を全額国庫負担(補助金97. 5%、起債償還財源の地方交付税措置2.5%)すると発表した。阪神淡路大震災 の災害廃棄物1450万トンに対する市町村の処理事業費は3400億円だった が、政府はこれより多い3519億円を5月2日成立した補正予算に災害廃棄物処 理事業費として盛り込んだ。これは環境省の当初予算額(約2009億円)よりも 大きい。 これまでのところ、環境省の対応は迅速かつ適切で、批判するところはないよう に見える。(ほんとうに適切だったかは廃棄物の撤去が実際に始まった現場を見な いとわからない。) 国の方針決定を受けて、宮城県は隣接県にさきがけて、4月13日に宮城県災害 廃棄物処理対策協議会を開催し、災害廃棄物の処理スキームを決定した。会議は震 災関係省庁(財務省、厚生労働省、農林水産省、林野庁、水産庁、経済産業省、国 土交通省、海上保安庁、環境省、陸上自衛隊)、政令指定都市である仙台市を含め すべての県下市町村と一部事務組合、関係業界団体(建設業、産業廃棄物処理業、 解体工事業、土地家屋調査士、農協、漁協、被災車両処理)が参加する大規模なも のだった。採用されたスキームは今回の震災における災害廃棄物処理のリーディン グケースとされた。 それによると、1箇所あたり100ヘクタール(1キロメートル四方)の災害廃 棄物仮置き場を確保し、その一角に1日1200トンの焼却施設(200トン炉6 基)と1日5000トンの破砕施設を建設する。これを仙台市を除く宮城県で4箇 所、仙台市で1箇所以上設置して、3年で処理を終えるとしている。1年に100 0万トン処理する能力があるから、3年は計算上可能な数字である。 このスキームを直ちに実行したのは仙台市である。おそらく最初から仙台市が実 行することを前提にしたスキームだったのだろう。 そこで5月4日、仙台市の災害廃棄物処理現場を調査した。以下はその速報であ る。一言で総括すれば、未曾有の被害であったにもかかわらず、まさに災害廃棄物 処理のリーディングケースと呼ぶにふさわしい模範的な状況であった。ただし、次 回以降に取り上げる周辺自治体の状況と比較すればわかるが、ここまで完璧に実施 できるのは、仙台市の財政規模が大きいこと、政令指定都市なので県を介さずに国 庫補助事業を施行できること、被害が大きかったのは沿岸部だけであり、中心市街 地はほぼ無傷で残されていることによるものである。いずれにしても、行政学的に も都市環境学的にも防災学的にも稀有の実証的取り組みが仙台市で進んでいるとい う印象を受けた。今後の展開も継続的にモニタリングしていきたい。 なお、廃棄物循環資源学会が仙台市の処理計画をマニュアル化して同学会ホーム ページから公表している。 (取材協力:仙台環境開発株式会社、財団法人宮城県環境事業公社) ※次回は仙台空港のある名取市を取り上げます。
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渋柿庵主人 |