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渋柿庵日乗 七○


災害廃棄物調査速報(その6)岩手県陸前高田市、大船渡市

2011年5月13日
 前回まで宮城県の状況を報告した。仙台市と気仙沼市の格差に驚いたと書いた
が、三陸海岸の岩手県側に入ると、状況はさらにひどかった。
 陸前高田市は破壊が著しく、海岸から30メートル以上津波が遡上した地区もあ
るようだった。津波の破壊力も他の地域より強かったようで、コンクリートの建物
の多くも耐えられず、自動車は車種も色もわからないほど破壊され、海岸の球場は
水没していた。
 学校の校庭にわずかにガレキ類が積まれていたが、すぐに満杯になってしまい、
撤去作業は断念されたのか、搬入は中止されていた。市営の大規模な災害廃棄物仮
置き場が設置されている様子はなかった。ガレキに埋もれ、人気がなく静まり返っ
た市内は、漫画「北斗の拳」で描かれた世紀末の荒涼たる光景のようだった。気仙
沼市は災害廃棄物の無法地帯だと前回書いたが、陸前高田市は無政府地帯である。
 大船渡市は高台にも建物があり、全滅という感じではなかったが、海岸沿いの地
区は陸前高田市と同様に著しく破壊されていた。やはりガレキの撤去は進んでいな
かった。

 千葉県庁は大船渡市役所への人的支援を決め、ゴールデンウィーク前から職員の
支援希望者を募り、義捐金の受付事務などを担当している。私が所属する課からも
希望者があり、来週派遣される。医療スタッフや土木技師は、それ以前から東北地
方の被災自治体に派遣されている。
 こうした人的支援は大賛成で、私も仕事が忙しくなければ行きたいところだ。し
かし、希望者を募った程度の支援でいいのかという疑問は残る。
 地方公務員は全国に300万人いる。その1割の30万人くらいの人的支援を総
務省のリーダーシップで組織してはどうかと思うが、総務省も、全国知事会・市長
会・町村会などの全国組織も、組織を挙げて計画的な支援をするという動きはな
く、ボランティア的、個別的な支援しか行っていない。何もやっていないわけでは
ないが、これでは間に合わない。
 倒壊家屋数などの被災の程度からすれば、東北3県のうち、宮城県が全体の半分
で、岩手県は宮城県の被害の半分、福島県は岩手県の半分だそうだが、復興は岩手
県のほうが宮城県より明らかに遅れている。原発事故による放射能汚染に見舞われ
た福島県の太平洋沿岸地域の状況は、私は今回調査しなかったが、行った人に聞く
と復興どころではなく、住民が未来への希望を失って精神的にダウンし、無気力状
態あるいは不安神経症状態に陥ってしまい、声もかけられない暗澹たる様相だとい
う。物理的な支援ではなく、精神的な支援が必要な状況なのである。
 地方自治の底力が試される震災だが、残念ながらまだその実力はほんの少ししか
発揮されていない。

 みなさまのご意見お待ちしております。(右のメールボタンよりお願いしま
す。)

※今回で速報は終わりですが、また経過は定期的に報告していきます。

 陸前高田市の気仙地区を復旧した国道から望む。市街地は津波で完全に破壊されている。右の白い建物は中学校だが、スケルトンになっていて向こうが透けて見える。
 気仙中学校の校庭に積まれたガレキ。すでに満杯で、搬入は中止されていた。
 比較的高台にある気仙小学校も三階まで津波によって破壊されている。右の体育館は鉄骨だけになっている。周辺の住宅地も全滅。校庭の左側にガレキが積まれている。
 小学校の校庭に積まれ
た災害廃棄物。これで倒
壊家屋数軒分と思われ
る。搬入は中止されてお
り、管理者はいなかっ
た。あまりのガレキの多
さ(おそらく1万棟程
度)に市は撤去を諦めて
しまったのではないかと
思われる。
 気仙成田山から望む気仙地区は爆撃を受けたように全滅している。過去の津波の経験からか、神社やお寺は高台にあることが多く、被災を免れている。
 陸前高田駅前の道路標識。道路がやっと復旧した段階だが、海岸沿いの国道はまだ一部が不通で堤防管理通路を使ってやっと片側通行していた。
 陸前高田駅周辺の市街地は完全に破壊され、駅がどこにあったかもわからず、ガレキだけの街になっている。本文にも書いたが「北斗の拳」の世界だ。パトカーと思われる自動車の破壊も著しい。
 陸前高田市役所。内部が破壊されたため、庁舎として放棄されている。手前は被災者を捜索する陸上自衛隊車両。
 海岸沿いの市営松原球場の近くに仮置きされた被災自動車。他の地域に比べて破壊度が著しく、車種はほとんどわからない。この仮置き場にあったすべての車両がこのように破壊されていた。写真奥にあった球場は地盤沈下によりほぼ水没していた。
 大船渡市の広場の時計は、津波到達時刻の午後3時25分を示したまま、首が折れたようになって壊れていた。地震発生(午後2時46分)から約39分後であり、避難する時間はあったと考えられる。
 大船渡市の津波被災地。陸前高田市と同様に破壊されてガレキの街となっている。
 大船渡市の破壊された工場もしくは倉庫。まだガレキの撤去は進んでいない。
 大船渡市の工業団地。まだ復旧には着手していない。人気もなく、ゴーストタウンである。
 陸前高田市の気仙小学校の近くに住民によって掲げられた鯉のぼり。青い鯉のぼりは男の子だそうで、家族の絆と復興のシンボルとされている。子供たちの世代への希望を託して曇り空に向かって力強く泳いでいた。
 がんばれ!!日本、がんばれ!!東北と言いたくなる光景だ。

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渋柿庵主人
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