I-Method

渋柿庵日乗 六二


予定調和神話の崩壊(その2)

2011年3月17日

 福島第一原発の事故は、最悪の状況になってきた。だが、それは「想定内での最
悪の状況」だと原子炉の専門家はコメントしている。
 原子炉は炉心溶融という最悪の状況になっても、格納容器の中に放射能を封じ込
められるように設計されている。そういう意味で「想定内での最悪の状況」なのだ
という。
 しかし、原子炉は車で言えば全損状態になった。炉心を冷却するあらゆる手段が
完全に失われ、炉心溶融が進行するに任せられている。
 東京電力に対応できる状況でなくなったことがはっきりしたので、やっと政府が
主導権を取り始めた。
 全損状態の原子炉の機能を修復するため、東芝や日立など、原子炉メーカーがよ
うやく支援チームを編成した。電源、水源、ポンプ、圧力弁の修復が間にあえば、
炉心溶融をストップさせられるだろう。スリーマイル島の事故より1%でもいいか
らましな状態で止めたいというのが、日本の原子炉メーカーの目標だろう。
 使用済み燃料の保管プールについては、自衛隊、警察、消防がヘリコプターや高
圧放水車、特殊消防車を使って注水を試みることになった。どちらも被曝覚悟の命
がけの作業になる。
 外国から招いた専門家はそれぞれ現地入りし、独自の情報収集を始めたようだ。
これまでにまき散らされた放射性物質を詳細に分析すれば、原発で何が起こり、こ
れから何が起こるかを予想できる。原子力災害対策特別措置法に基づいて東電が提
供する報告しか情報源がない無能な原子力安全・保安院とは違って、外国の核事故
専門家は独自の情報と独自の理論に基づいた独自の状況分析をしてくれることだろ
う。

 この原子炉が建設された40年前、原発は最先端のハイテクだった。だが今、沸
騰水型原子炉は陳腐化したローテクである。40年前、この原発建設に携わった技
術者と、現在、この原発を運転している技術者ではレベルもプライドも違う。
 すべての制御系が失われ、建物も吹き飛び、全損状態の原子炉が露出してしまっ
た今、もはや現在の技術者ができることは何もないように思える。40年前の技術
者が、どんなことになっても絶対に安全だとプライドを持って設計した範囲内で、
炉心溶融がウランの再臨界に至らずに止まってくれることを祈るばかりだ。
 東電の対応を批判する報道が目立つようになっている。確かにずさんさが目立っ
たことは否めないが、東電は所詮は原発のドライバーである。最後に安全性に責任
を持つべきは原子炉メーカー(※)である。
 現代の技術者にだって40年前の技術者に負けないプライドがあるだろう。この
最悪の状況にあっても、原発の安全神話を守るために、日本の原子炉メーカーのぎ
りぎりのチャレンジがこれから始まるだろう。
 それにしても国の関与が遅すぎる。今なお、警察と消防は、国の命令ではなく東
京電力の依頼で出動しており、電源復旧作業も陸自ではなく東電が実施している。
国家的な危機なのに国(防衛庁)が現場の指揮権を統括するという危機管理システ
ムが存在しない。

※福島第一原発のメーカー 1号機:GE 2・6号機:GE・東芝 3・5号
機:東芝 4号機:日立 GEは現在日立GEニュークリア・エナジー 格納容器
など原子炉以外の付帯設備の多くは東芝・日立が納品

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ
渋柿庵主人