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渋柿庵日乗 六九


災害廃棄物調査速報(その5)宮城県気仙沼市

2011年5月12日
 (その3)では、環境省と宮城県の災害廃棄物に対する対応を紹介した。100
点満点とは言えないが、合格点だと思った。しかし、気仙沼市に来てみると、それ
が幻想であったことを思い知らされた。
 気仙沼市の津波被害は、市街地が全滅という状況ではなく、倒壊した家屋と倒壊
しなかった家屋とがまだら模様だった。おそらく津波がゆっくりと侵入したため、
基礎の貧弱な老朽家屋の被害だけが大きくなったのだと思われる。
 市内では市役所による計画的な災害廃棄物の撤去が行われているというより、市
民による自主撤去が進んでいるという印象を受けた。十分な公共仮置き場が確保で
きていないようで、市内の学校や公園、さらには道路、流失した家屋の跡地など
に、市民が勝手に廃棄物を積上げていた。いわばそこは無法地帯だった。
 同じ宮城県なのに、仙台市との格差には驚かざるを得なかった。

 どうしてこうなるのだろうか。現在の法律の枠組みでは、災害廃棄物は市町村に
処理責任がある一般廃棄物となる。市町村ができない場合は県が支援することにな
るが、これは地方自治法第252条の14第1項による自治体間の事務の委託(こ
の場合は市町村から県へ)という形をとる。市町村に代わって県が職権で災害廃棄
物を処理することはできない。
 宮城県が4月13日に災害廃棄物処理対策協議会で決定したスキームによると、
仙台市以外では、市町村が設置した一次仮置き場に災害廃棄物を移動し、その後1
年以内に県が設置した二次(大規模)仮置き場に移動し、3年以内に焼却ないし破
砕処理を完了することになる。立派なスキームであるが、県の大規模仮置き場はま
だ用地選定の段階であり、県は市町村から地方自治法の委託を受けられる状況では
ない。
 つまり県のスキームは現状では絵に描いた餅であり、結果的にはそれぞれの市町
村に災害廃棄物の処理が任されている。そのため市町村の実力の差が出てしまうの
である。

 気仙沼市のような自力で災害廃棄物の処理を始める実力のない自治体に対する即
効性のある支援策は皆無である。環境省は3月のうちに矢継ぎ早に通達や指針を出
し、補正予算でも阪神淡路大震災を上回る災害廃棄物処理事業費を計上した。一見
迅速な対応だったかに見えるが、環境省の打つ手はそこまでで打ち止めであり、結
果的には現場を無法状態にしてしまっている。宮城県にも打つ手がない。
 しかし、これは環境省の責任とは言えないだろう。自治体の機能が全滅するよう
な未曾有の大災害時には、国、都道府県、市町村という3階建てのシステムはうま
く機能しないのである。
 もしも可能なものなら、非常事態宣言によって地方自治法を停止し、県が職権に
よって災害廃棄物の処理などの市町村の事務を直接実施できるようにすべきだろ
う。そうすれば宮城県も仙台市のように自己完結的に活動することができ、仙台市
と気仙沼市の格差も縮小することができるだろう。そのような行政システムの枠組
みそのものを組み替える非常措置を環境省に求めることはできないが、今はそれこ
そが求められている。

 災害廃棄物の撤去だけでもこれだけの格差が生じてしまうのだから、これからの
生活再建や産業再生などの復興にどれだけの格差が生じるのか。放射能汚染に見舞
われた福島県の復興もやっぱり自治体が担うのか。日本の地方自治システムは大き
な課題を突きつけられている。
 小泉内閣の時に三位一体の改革(国庫補助負担金、税財源、地方交付税の一体的
改革)と言われた地方自治改革は、平成の大合併によって多くの中核市を誕生させ
た以外は大きな成果がなく、財源と権限の不一致はそのまま残された。市町村の数
は半減し、市町村の財政規模は平均して倍になったが、今回の震災に対応できる規
模になった市町村は少なかった。市町村がそれなりに大きくなっただけ、都道府県
の役割は中途半端になり、震災で県が果たした役割は県道や二級河川など県管理施
設の復旧だけであり、後は情報を収集して国に報告したにすぎない。知事が本部長
となる県の災害対策本部は名前ばかりで無力であり、国や首相の無能を笑えない。
 国は復興庁の創設と言った耳さわりのいい施策に傾いており、メディアもそれを
追っているが、復興庁が市町村の窮状を救ってくれるとは思われない。それよりも
中途半端な役割しか果たせていない県に、復興事業の包括的な執行権限を与えるほ
うが近道だと思われるが、県は国からも市町村からも頼りにされていないため、そ
のような声は高まらない。
 気仙沼市の状況を見て感じたのは、市役所の無能ではない。市域が全滅している
のだから手が回らなくてもやむをえない。私が感じたのは法律を無視しても市の窮
状を救わなければならない県庁の無能である。県庁が救わなければだれも市を救え
ないという使命感がないのだ。

※次回は岩手県陸前高田市と大船渡市を取り上げます。

 気仙沼市の住宅街は、津波に流された住宅と流されなかった住宅のまだら模様になっている。倒壊家屋の解体やガレキの撤去は始まっているが、計画的ではなく、撤去状況も中途半端で、個人がやっているように見える。
 震災から2ヶ月が経過しても、まだ河川に落ちたままになっているタンクローリー。河川敷の廃棄物もまだ清掃されていない。
 大川の河川敷に流出したままになっている住宅。
 小さな公園は市民のゴ
ミ捨て場になっている。
作業をしている人に聞く
と、「他人の土地に積む
よりいいと思って」勝手
に運び込んでいるとい
う。仙台市のように市が
管理している仮置き場で
はないようである。
 道路脇に積まれた災害廃棄物。右の住宅はかろうじて建っているが、一階が完全に破壊され、ほぼ全壊である。住宅前の廃棄物は、近隣住民が勝手に持ち込んだものと思われる。
 空地に積まれた災害廃棄物。市が管理しているようには見えないので、不法投棄である。
 南気仙沼小学校の校庭に積まれた災害廃棄物。津波で流れ着いたのか、住民が持ち込んだのかはわからない。
 津波で流失した家屋の跡地に近隣の住民が勝手に持ち込んだことが明らかな災害廃棄物。このような不法投棄が市内いたるところに出現し、廃棄物の無法地帯と化している。
 道端に置かれたままのプロパンガスボンベ。危険物として市が回収することを期待して置かれたのだろうが、市の車両はすぐ近くまできたのに素通りだった。仙台市の取り組みとはあまりにも違う。

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渋柿庵主人