I-Method

渋柿庵日乗 五四


トイレカレンダーパーティ

2010年11月4日
 財津昌樹氏の「トイレで知る・考える」カレンダー展が、表参道ヒルズ同潤館で
7日(日)まで開催されている。2日はそのオープニングパーティに参加した。
 表参道ヒルズのある場所に、かつて同潤会青山アパートがたち並んでいた光景を
覚えている人は多いと思う。取り壊される直前には幽霊が出そうなほどのボロアパ
ートだったが、関東大震災からの復興のために都内各地に建てられた日本最初の鉄
筋コンクリートアパートで、大正時代の輝かしい歴史遺産だった。その一棟が保存
され、同潤館としてブティックやギャラリーに利用されて、表参道ヒルズと違和感
なく並び建っている。それもそのはずで、表参道ヒルズの外観デザインには同潤会
アパートのイメージが生かされているのだそうだ。
 1992年から始まった財津氏のトイレカレンダープロジェクトも、2011年
版の完成で20年目(19作目)となった。最初見たときは「トイレに貼ってお使
いください」というコピーの書かれたカレンダーにぎょっとしたが、財津氏の辛辣
な世相批判と、山口マオ氏のほのぼのしたイラストとのコラボが絶妙で、毎年の新
作の発表が楽しみになった。ファンは多いようで、今年のオープニングパーティも
満場の盛況だった。私は2003年版ころから監修・相談者として参加している。



 環境をやっている人は仲がいい。製品開発部門では、ソニーとパナソニックのエ
ンジニアが安易に情報交換しようものなら機密漏洩になってしまうが、環境部門は
技術や売上を競っているわけではないから、ある意味で緩い。企業の環境部門は同
業種、異業種を問わずさまざまなレベルで盛んな交流があり、とにかくとても仲が
よく、交流の輪がどんどん広がっていく。
 環境の輪には企業の環境部門の輪のほかにも、環境系団体の輪、学識者の輪、政
治の輪、行政の輪、環境系事業者の輪などがあって、輪の中ではとても仲良しだ
が、これらの輪が相互に仲がよいかというとそうでもない。
 行政と環境系団体は仲がよくない。環境系団体はとかく行政に批判的だし、行政
も環境系団体の幹部を無辜の市民を装ったプロ市民だと疑っている。その一方で行
政寄り、企業寄りのNPOも増えてきている。ただし、NPOとは言っても内実は
ビジネス志向が強いところも多いようである。
 環境系団体と環境系事業者は表向きは敵対関係にある。環境系団体が攻撃のター
ゲットにしている事業者は、業務内容が悪いからということより、攻撃することが
エポックメーキングになるからという場合が少なくない。攻撃しても話題にならな
い事業者は攻撃しないのだ。だから地域の迷惑施設だけではなく、地域一番の優良
事業者や新規事業者もターゲットにされやすい。
 学識者(大学教授、弁護士、官僚OBなど)には環境法、環境経済、環境工学と
いった専門分野の区別があり、行政寄りの立ち位置の学識者もいれば団体寄りの立
ち位置の学識者もいる。行政と団体の二股をかけている学識者もいる。環境を専門
にしている学識者は総じて数が少ないので、互いに面識があって仲がいいし、企業
や行政ともつながりが深い。さまざまな審議会や委員会や検討会が各省庁にたくさ
ん設置されているが、座長級の学識者の面子はいつも同じだ。
 環境系事業者は協会や組合といった団体にまとまっている。組織率は高いし、結
束も固い。これは環境法が複雑・難解で解釈に幅があるために、情報交換が不可欠
だからだ。自治体ごとに法の解釈が異なり、環境省の見解も安定せず、さらに自治
体ごとの条例や要綱が乱立している状況では、事業者が地域ごとにまとまって情報
収集・情報交換することのメリットは大きい。



 私はこうしたさまざまな環境の輪のどれにもかかわっている、インサイダーとも
アウトサイダーとも言える不思議な立ち位置にいるので、輪が違えば評価の基準が
違うということを肌で実感することが多い。
 たとえば一つ例題を出してみよう。食品系の残渣5キログラムを乾燥して燃料ペ
レットに再生するため、石油2リットル分のエネルギーを消費し、できあがった燃
料ペレットは石油1リットル分のエネルギーを持っているというリサイクル事業が
あったとする。これをどう評価するだろうか。
 環境工学系の学者は、エネルギー収支的に無意味だから、燃料化しないでそのま
ま単純焼却してしまったほうがいいと勝ち誇ったように言うかもしれない。(そん
な本がバカ売れしたこともあった。)
 環境系団体は、燃料化しようとしまいと廃棄物を燃やすこと自体が問題なんだ
と、あまり深く考えもせずに言うかもしれない。
 企業の環境経営担当者は、単純焼却では食品リサイクル法の目標をクリアできな
いから、エネルギー収支がどうあろうと燃料化事業者に委託するしかないのだと、
悩まし気に言うかもしれない。
 燃料化事業者は、単純焼却のための自治体の清掃工場建設費・運営費まで考えれ
ば、燃料化して民間施設で有効利用したほうが社会的なトータルコストは低いのだ
と懇懇とあるいは切々と言うかもしれない。
 地球温暖化ガス削減をコンサルティングしている企業は、燃料ペレットをオフセ
ット商品として売り出せばもっと儲かると営業トークで言うかもしれない。
 プラントメーカーは、将来の技術革新によりエネルギー収支をプラスにできる見
込みがあると、確たる根拠もなしに言うかもしれない。
 こんなふうにたった一つの事業でも評価はさまざまになるにちがいないが、全体
としては環境規制の時代から、環境経営の時代へ、さらに環境ビジネスの時代へ
と、環境の意味が発展していることが感じられる。



 環境ビジネスの時代になれば、みんながライバルだから、いままでみたいに仲良
くばかりもしていられないかもしれない。それでもやっぱり環境は利害を超えてみ
んなが仲良くしないと守れないものである。どこまで行っても超えられない環境と
経済の矛盾に悩みながら、環境への企業、団体、政治、行政、学識者の取り組みが
これからどの方向へ向かい、どんな結果が出るのか楽しみであるし、財津氏のトイ
レカレンダーが環境の時代を写す12枚の澄んだ鏡であり、みんなが手を取り合う
輪であり続ければ面白い。そう思いながら、盛況のうちにパーティ会場をそっと離
れた。

財津氏の開宴挨拶
財津氏、大学生Mさん、筆者

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渋柿庵主人