I-Method

渋柿庵日乗 二三


10%、10倍、100年

2010年3月28日
 金曜日(26日)に、「環境と経営のビジネストレンド研究会」第17期第3回例会に出席した。今回は、東芝の環境推進部長、実平喜好氏の「東芝グループの環境戦略〜CO2マイナス25%を検証する〜」というお話を聞いた。
 何年か前、同社の社員研修会の講師にお招きいただいたおり、「産廃コネクションはダイナブックで書きました」と言ったとき、喝采を受けたことを思い出しながら、実平氏のお話を聞いていた。
 東芝の製品群(約100種類)が関係するCO2排出量は、日本全体の排出量の10%になるという。その比重にいささか驚いた。
 日本のCO2の排出量は13億トンくらいで、これを2025年までに25%減らすためには、削減量で3億トンくらいになる。東芝が販売する製品群全体の削減目標は、2025年に1億2千万トンだというから、なんと日本の削減目標の3分の1を東芝の製品群が引き受けるつもりだということになる。このためには東芝が実現している削減効率を2000年比で2025年には5倍、2050年には10倍にしたいというから、どれほど野心的な目標を立てているかがわかる。ただし、現在の技術では、2005年をベースにして2025年までに削減できる限界は20%だと実平氏は告白されていた。

 日本のCO2排出量は、世界の排出量270億トンの約20分の1になる。日本の経済力は世界のGDPの10分の1くらいをしめるから、エネルギー効率が平均の2倍くらいあるということになる。
 この10%、あるいは10倍という近似値を、実は私はよく使う。
 私の住んでいる船橋市の経済力を10倍すると千葉県の経済力になる。千葉県の経済力(とくに工業系)を10倍すると日本の経済力になる。(ただし、人口は20倍する必要がある。)日本のGDP(500兆円程度)を10倍すると、世界のGDPになる。(ただしエネルギー消費量は20倍する必要がある。)そして世界のGDPを10倍すると金融商品(株式、証券の現物、先物、それらを組み合わせたさまざまなデリバティブ)の時価総額になる。
 日本はまだ2年前のリーマンショックによる世界経済のリセッションから抜け出せずにいるが、世界の金融商品の時価総額が1%変動すると日本のGDPが吹っ飛び、10%変動すると世界のGDPが吹っ飛ぶのだ。
 現在、経済に東西の対立はないが、国営企業や財閥を介して国家が経済を支配する国と、そのような支配が顕著ではない国に二極化しているように思う。リーマンショックからの立ち直りは前者のほうが早かったように見える。CO2の削減でも、経済に対する国家の影響力が強いほうがよいのではないかという意見がある。



 CO2排出量の半分くらいはエネルギー産業と資源産業が握っている。エネルギー分野では、これまで化石燃料(石油、天然ガス、石炭)が支配的だったが、エネルギー資源対策とCO2削減対策の両面から、原子力の時代が復活する機運になっている。
 東芝は、言わずとしれた世界の原子力メジャーだ。日本の重電3社(三菱重工、日立製作所、東芝)なくして、原発は作れない。
 とくに注目が集まっているのが東芝が開発した4S(Super-Safe, Small and Simple)と呼ばれる小型高速炉 (TWR)だ。出力は1万キロワットで、通常の大型原発の100分の1程度になる。技術的には東芝が開発にかかわっていた「もんじゅ」をコンパクトにしたものだ。
 4Sの最大の特徴は、燃料交換なく100年間発電を続けることで、いわば100年使える原子炉電池である。東芝はすでに30年間ノンストップの4Sを完成しているという。
 1万キロワットあれば、工場や数千人規模の住宅団地の電源として使える。他の再生可能電源(風力、太陽電池など)をスマートグリッドによって最適に組み合わせれば、きわめて安定性の高いカーボンフリー電力ネットワークを地域ごとに構築できる。

 マイクロソフトのビル・ゲイツ氏がこの4Sに関心を示しており、同氏のベンチャー企業「テラパワー」と東芝が連携する動きも出ているという。昨年11月、同氏がテラパワー幹部をひきつれて、横浜市に完成したばかりの磯子原子力エンジニアリングセンターを極秘に訪問し、最初の要人訪問者として記帳たことも、最近になって報じられた。このことは実平氏の講演でも大きなトピックスになっていた。
 既存の原発は50年前に技術が完成しているローテクであるが、最新型の4Sが実現すれば、原発は新世代を迎える。原発のコストの半分は立地コスト、つまり地元対策費だと言われるが、4Sは原子力潜水艦に搭載している小型原子炉を地上で使うようなもので、原子炉本体は冷蔵庫程度の大きさしかなく、立地の問題はない。しかも燃料交換が必要なく電池のように使えるなら、その利便性の高さは他の発電機の比ではない。その普及にはさまざまな法的課題があるし、原子力アレルギーの環境団体は激しく抵抗するかもしれないが、もしも地球温暖化の真犯人がほんとうにCO2だとするならば、4Sは温暖化対策のダークホースになる可能性が高いように思われた。

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渋柿庵主人