I-Method
計算間違いをしません |
2010年5月31日 |
高校時代、変人で有名な後輩がいた。何をそんなに急いでいるのか、通学路を毎朝風のような競歩でかけぬけていく。遠目にも目立つことこの上なく、いまならお笑い芸人向きのキャラだった。その彼が生徒会役員選挙に立候補したときのエピソードがある。 分をわきまえて会長ではなく会計候補となった彼は、立会い演説会で、大真面目にこんな公約をした。「僕が会計になったら計算間違いをしません」その瞬間、会場が爆笑に包まれた。 しかし僕は、自分のやるべき仕事を自覚したすばらしい演説だと、ほとんどカルチャーショックを覚えるほど感動した。もちろん、同時にバカだとも思った。結果的にはぶっちぎりの当選だった。 他の優等生立候補者は「明るい学校にしたい」とかいったことを言ったんだと思うが、なにも覚えていないし、たぶん記憶が最初から作られなかった。 参議院選挙の事前運動で街角が騒がしくなってきた。 「清き一票を」と言ってしまうと公職選挙法違反(事前運動違反)になるが、「立候補予定者の○○をよろしく」はギリギリセーフとか。誰がギリギリを決めているか知らないが、あいも変らぬザル法国家だ。 何を訴えているのかと耳を傾けてみると、民主党の公約違反を非難しているようだ。民主党はこのところ自殺点続きなので、争点のない参院選の格好のネタにされている。 だけど、民主党の公約違反が争点になっているのだとすれば、総選挙の時の民主党の公約をみんながまだ覚えているし、その公約が軽んじられていないということだ。 参院選挙を前にして、新党がブームになっているが、結党時の記者会見で何を約束したのか、ほとんど覚えていない。 民主党の公約違反は確かにほめられたことではないが、公約を実現できないのは、国民が辛抱強く政権を支えていないことも一因だろうと思う。バカだと言われ続けた前ブッシュ大統領を支え、演説がうまいだけだったとわかってしまったオバマ大統領も支えているアメリカ国民に比べ、日本国民は政権を支える辛抱が足らない。政権を短命に終わらせ、国益を損ねている責任は、国民にある。 参院選の投票日まで1ヶ月あまり。印象に残る公約ができる政党も候補者も見当たらない。支持すべき政党も候補者も決められず、自主投票を決める団体が増えている。これが今度の選挙の最大の特徴だ。つまり、ほんとうにもうなんにも期待されていない選挙なのだ。 高校時代のあの変人の後輩なら、参議院ならではの公約、たとえば「6年間、僕は政治献金を1円ももらいません」みたいなことを大真面目に言って、また爆笑されるんじゃないかと思う。 何をやりたくて政治家になってもかまわないが、いったい自分の仕事はなんなのか、それをはっきりさせてもらいたいものだ。そうでないと、すべての政党が負けという選挙になってしまうだろう。でも、全員落選という選挙がもしも可能なら、それが一番いいような気がしている。 先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ |
渋柿庵主人 |