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参院選直前特集(3) 少子化について |
2010年6月12日 |
子供手当ての半額支給が始まったと思ったら、全額支給はしないと発表するなど、民主党の政策はあいかわらずちぐはぐだ。満額だろうと半額だろうと、この政策で少子化に歯止めがかかるかどうかは、二の次のようで、選挙のためのばら撒きになってしまっているのがさびしい。 少子化は、ある程度経済が発展した国に共通の悩みだ。アジア諸国の中で日本の合計特殊出生率1.2はむしろまだ高いほうで、韓国、台湾、香港、シンガポールなどは軒並み日本より低い。先進国の中では、ドイツ、イタリア、スペインなどがほぼ日本なみ、米国とフランスは1.9以上あり、その他のEU諸国は1.6〜1.8くらいである。 各国とも打つ手は似ていて、出産、育児、休職に手厚い手当てを支給している。 思い切った対策で目立っているのはフランスで、出生届けから父親の欄を消した。これで婚外子の出生が全出生数の5割にもなり、出生率の回復に貢献したという。しかし、この対策だけでうまくいったわけじゃない。 フランスの子供手当ては、2人目から支給される仕組みで、3人目からは増額される。所得制限もあるから、どっかの国みたいにばらまきじゃない。金額的には月額2万円くらいで、どっかの国の案(満額の場合)と似ている。 フランスには、出産、教育、休職、税金にも手厚い手当てや優遇がある。未入籍のカップルでも子供が生まれれば税控除を受けられる。出産・育児のための休職と復職は企業に義務付けられている。こうしたあらゆる手を打った結果、フランスの出生率は先進国ではトップクラスとなり、子供を産み育てやすい国になった。ただし、子供にお金を使いすぎたので、財政はかなり厳しくなっている。 フランスをお手本にする国が増えていて、日本の民主党も勉強しているようだが、子供手当てだけをつまみぐい、しかも半額支給で腰砕けになったのではどうしようもない。選挙対策もあって一人目から支給対象にし、自治体の事務を減らすためなのか知らないが所得制限を設けなかったから、たちまち財源不足になってしまった。 子供のいないDINKSに一人目の子を作ってもらうのと、二人目、三人目の子をあきらめている夫婦にもう一人作ってもらうのと、どっちが政策的な効果があるかは計算が必要だが、子供手当の支給対象をフランスと同様に二人目からにし、所得制限も設けていれば、費用対効果はたぶんずっと高くなったはずだし、出産、教育、休職の保障にもお金を回せたはずだ。貧乏人の大盤振る舞いになってしまった民主党の子供手当ては、子供より票を増やしたい政策だったようだ。 分娩費を無料にしている国は多い。なぜ、民主党がこの政策を選ばなかったかはちょっと疑問だ。分娩費を無料にしたって、何十人も産むわけじゃないんだから、予算はたかが知れている。15年間毎月払い続ける子供手当てとは違うのだ。産科病院が保守的で現状を変えたがらないのは事実だが、分娩費が高額なことが少子化の一因だとすれば、産科病院こそ少子化の元凶と言えなくもない。農協が農業をだめにしているのと同じだ。 医師会が自民党を見限って民主党支持に寝返ったのは、自民党が診療報酬を減額した報復であって、医療の現状を憂えたせいじゃないのだが、少子化を憂えているはずの医師会が分娩費無料化を訴えないのも理解に苦しむ。分娩費全額公費制度にしたら、産科病院が自由に分娩費を決められなくなって、収入が減ると思っているからなのだろうが、「医術は算術」なのかと情けない。 労働行政はもっとひどい。戦後まもなくの失業対策、労使紛争、そして高度経済成長によって人口が都市に大移動していた時代は、労働省の全盛時代だった。だけど先進国最低の失業率を誇るようになると、かえってだんだん影が薄くなり、厚生労働省になってからは気配すら感じられなくなった。そういえば職安は労働行政だったと思い出すくらいだが、リクルート産業が百花繚乱のなか、ハローワークの存在感もなくなった。 少子化時代には労働力が不足するのだから、高齢者にも女性にも働いてもらわないといけない。ところが定年制で高齢者を会社から追い出し、「おめでた(結婚・出産)」で女性を会社から追い出す悪風(人によっては美風だと考えている)が漫然と続けられている。 ほとんどの先進国では、定年制も、おめでた退社も違法だ。雇用契約時に退社条件とすることも禁止されている。日本にだって雇用機会均等法はあるが、例によってどうしようもないザル法で、何を守ってるのかわからない法律になっている。とにかくどの分野にもザル法が多いのには困ったものだ。 働く女性が育児休職もとれなければ、辞めたら最後復職もさせない。そうして有能な女性に低賃金のパートをやらせてる。こんな理不尽な状態を放置したまま、少子化対策を語る資格が内閣にも官僚にもあるとは思われない。仕事と出産を両立できないのだから、結婚は望んでも出産を望まないキャリアウーマンが増えるのは当然だ。 とにかく働く女性の「働く権利」と「産む権利」の両立をがちがちに守ることが、世界の少子化対策の基本中の基本になっている。少子化対策先進国のフランスでは、女性の8割が仕事を持っているそうだ。働きながら産み、働きながら育てる。これをきちんと政策として実現していない先進国は、たぶん日本だけだ。子供手当てを何兆円もばらまく前に、まずこれをやってほしかった。 働く女性が子供を産んでも働き続けてくれれば、税金を払ってくれるのだから、政府も助かるし、企業だって1人1000万円とも言われる新人教育に余計な金をかけなくていいし、出産前と同じ仕事で同じ収入が得られれば、本人の生活だって充実し、教育にもお金をかけられる。所得税課税最低限以下のパートに再就職じゃ仕事をしていることにならない。仕事をばりばりやりながら育児も両立させている女性がかっこいい国にしないといけない。 女性に働きながら産み育ててもらうためには、保育所不足も深刻だ。保育所の認可にはいろいろ面倒な基準がある上に、子供が減っているので、統計上の数字だけを見ると足りているような気がしてしまう。だけど保育所や託児所の需要は減っていない。働く女性は小規模でもいいから、職場の近くに託児施設がほしいし、夜遅くまでみてもらいたい。そういう働く女性のニーズにこたえるため、無認可保育所が増えている。最近は無認可保育所の上手な選び方みたいな本まで出版されている。 無認可保育所といってもモグリではなく、届け出ていれば違法ではないというところが、さすがザル法国家、ダブルスタンダード国家である。しかし、無認可だから保育レベルには差があるし、事故も少なくない。まめに話しかけてあげないと子供は言葉を覚えないので、人手が足らない無認可保育所に預けていると、言葉が遅くなってしまうこともあるという。 ちょっとした支援で無認可保育所だってよくなる。実際、無認可保育所の助成をしている自治体もある。厚生労働省には、もはやこの問題の当事者能力がない。自民党を追い出されて新党を作ったあの方だって、厚労相としていったい何をやったのか記憶に残ってない。 労働者が足らなければ移民を受け入れろといまさら言う人がいるが、現状がわかっていない。日本にはアジア系の外国人留学生があふれている。少子化で経営が苦しくなった地方の私大が、積極的に留学生を受け入れるのを、文部科学省が助成したからだ。 ところが文部科学省と法務省の連携がなく、在学中に就職を決めて就労ビザを申請しておかないと、卒業したとたんにビザが切れ、本国に帰るか、不法滞在するしかなくなる。就労ビザは留学ビザよりも格段に条件が難しく、内定書ではビザ申請が難しいし、就労ビザの申請のためにきちんとした書類を作ってくれる会社も少ない。入国管理局は書類が不備だと補正指示もなしにばっさりビザ申請を棄却して、窓口に不安そうに立っている元留学生に向かって「あなたは今日から不法滞在者なんですよ」なんて涼しい顔で説明する。それはそれは情け容赦のない(血も涙もない)お役所なのだ。 就職先が見つからなかった留学生が日本に残りたいと思ったら、偽装結婚ビザか偽装就労ビザを買うしかない。その期限が切れるとほんとうの不法滞在になる。法務省の統計には偽装ビザによる滞在者は不法滞在者にカウントされていない。法務省の統計なんてほとんどあてにならないのだ。困るのは、ビザを買うために、あまり好ましくないバイトをしたりすることだ。風俗、薬物、ピッキング、さらには殺人だってやる。 せっかく日本の税金を使って教育したのに、偽装ビザでしか留学生が在留を続けられない国だというのは、ちょっと政策的におかしい。いまさら移民がどうのこうのと言わなくても、留学生がそのまま日本に在留できるようにしてあげればいいだけのことだ。 法務省が外国人に冷たい政策を続ければ続けるほど、外国人はしたたかなマイノリティとして、ひいてはアウトローとして根をはっていくだけだ。 少子化対策というと、子供を持っている世代に目が行きがちだが、これから子供を持つことになる世代、つまり中高生の意識も大事だ。 そういえば最近、妻が面白いことを言っていた。 日本のトレンディードラマは高校生のドラマがやたらに多く、高校生の次には、大学生を飛ばしてOLのドラマが多い。これはどうして? 私はあんまり深く考えもせずに、「高校生とOLだけが元気な国だからだろう」と答えた。 一番元気な高校生とOLが、結婚には関心があっても子供には関心がない。フランスの逆だ。フランスの女性は子供には関心があっても、結婚には関心がない。これが世界のトレンディーだってこと、日本の高校生にも気づいてほしい。 たぶん厚生労働省も、文部科学省も、法務省も、少子化の根本原因がどこにあるのか、ちゃんとわかっている。フランスの政策くらい丸暗記している。問題なのは、わかっているのになんにもできない政府になってしまったことだ。これはどのジャンルでも共通して言えることだが、せめて少子化問題くらい解決してもらいたい。 打つ手はちゃんとある。子供を持つためにあきらめなければならないことが多すぎる国なのだ。女性にとって出産がプラス面だけで、マイナス面がなんにもないようにすればいいだけだ。フランスでは父親すら出産のマイナス面として切り捨ててしまった。先進国で唯一、夫婦別姓すら実現できないでいる国で、さすがにいきなり非婚の母にエールを送る政策には転換できないだろうが、一つ一つ出産のマイナス面をつぶしていけば、かならず出生率は回復する。 次回は高速道路だ。 先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ |
渋柿庵主人 |