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渋柿庵日乗 三三


参院選直前特集(1) 国防について

2010年6月10日
 参議院選挙が近づいているが、あまり政策論争が盛り上がっていない。民主党が予定どおり反米鳩山政権から親米菅政権にチェンジしたことで、さらに争点がぼけている。というより、この時期の首相交代は、小沢シナリオどおりだろう。閣僚から小沢色が消えたと報道されているのも小沢シナリオのうちだ。小沢以外の誰が民主党の参院選をプロデュースできるというのだ。
 盛り上がっていない政策論争に一石を投じようというわけではないが、せっかく選挙が近いので、これから何回かにわけて、一人で政策論争をしてみたい。
 完璧な弁論を準備するより、読者からの反論を期待して、荒削りな意見を述べたほうがいいと思うので、資料なしで書き流すことにする。資料を確認していないので、記憶違いがあるかもしれない。細かなところは信用しないでもらいたい。間違いがあったらぜひ指摘してください。



 鳩山前首相は、総選挙前から、アメリカ政府がグローバリズムの名の下に世界を支配しようとしていると批判するなど、反米色を露わにして物議をかもしていた。
 小沢前幹事長も、師の田中角栄がアメリカ政府の同意を得ずに中国と国交回復したことの報復として、ロッキード事件を起こされたという持論を持っているらしい。ついでに執念とも言える検察嫌いも、田中角栄と金丸信の敵討ちだと言われている。
 二人がコンビを組めば、アメリカ政府から反米政権というレッテルを貼られ、検察からもいじめられることは当然だった。
 結果的には普天間基地の問題で鳩山政権は、日本国民からもアメリカ政府からも引導を渡された形になった。

 それはそれとして国防の問題だが、日本は北朝鮮と台湾という二つの火薬庫を抱えているというのが、言わずと知れた日本の置かれた国防上のポジションだ。
 台湾は明白にアメリカが守っている。これを手放す気はないだろう。北朝鮮はブッシュ前大統領が悪の枢軸と呼んだりしていたが、アメリカのスタンスは実際には中途半端で、日本、中国、ロシアを牽制するジョーカーとして北朝鮮を利用している臭いがぷんぷんする。つまり、朝鮮半島統一をバックアップするため、あえて手の内のジョーカーを切ってくる気はなさそうだ。北朝鮮もアメリカの思惑をわかっていて強気になっていると言えなくもないが、とにかく経済が悪いので、将軍様の後継者問題をきっかけに内部崩壊する可能性が高い。もしも軍部が暴走すると大変なことになる。

 日本の自衛隊は朝鮮半島がどんな緊迫した状況になろうと、米軍と作戦行動を共にするしかない。というより、米軍に従属するしかない。
 理由は簡単で、自衛隊には情報がない。もっとストレートに言えば軍事衛星を持っていない。有事となれば、気象衛星などの情報を軍事転用することも不可能ではないだろうが、低空軌道の軍事衛星とは情報のレベルが違う。
 日本はステルス戦闘機をとんでもない高値でロッキードから買おうとしているが、ステルス戦闘機がステルス性能で飛ぼうとするなら、レーダー波を発射できない。となると、軍事衛星から位置情報をもらわないと、飛べない。日本の防衛力は自立していないのだ。
 そんな状況だから、アメリカ軍に沖縄から出て行けなどと、言えたものじゃない。
 実際には沖縄に駐留しているはずの海兵隊は湾岸地域に出かけ、イラクやアフガニスタンで戦っている。沖縄に帰るのは訓練か休暇のためで、日本を守るためじゃない。だから米軍にすれば、別にベースキャンプは沖縄でもグアムでもどっちでもいい。ただ、日本が金を払ってくれているから、日本にいるのだ。
 「ヤクザな居候に金を払って居てもらっているダメ親父」に日本をたとえた友人がいて、なるほどと思ったことがあるが、チンピラにナイフで襲撃されるよりは、ピストルを持っているプロのヤクザのほうがましというのが、日本の国防のスタンスだ。



 普天間基地の問題で首相が更迭されたというのに、国防問題は選挙の争点にはなっていないようだ。普天間基地の問題は国防問題じゃなく、沖縄のローカルな問題だったかのような論調の報道にもちょっとあきれる。
 「アメリカを本気で怒らせなくてよかった」なんてことを言うコメンテータはいないようだし、クリントン国務長官来日のほんとうの目的を伝えるメディアもなかった。
 クリントンは日本とアメリカの同盟関係を確認しに来たのだ。アメリカが気にしているのは、普天間基地がどこに移転するかでもないし、韓国の軍艦が魚雷で撃沈されたことでもない。そんなことのためにわざわざ長官が日本まで来ない。オバマ政権が気に病んでいるのは泥沼の湾岸地域だ。たぶん鳩山内閣が反故にしてしまった自民党政権時代の戦争協力を復活させに来たのだろう。もはや命脈尽きていた鳩山首相に抵抗する力は残っていなかったに違いない。
 どんなバーターが行われたかわからないが、鳩山と小沢を更迭し、親米の菅政権と交代すれば、参院選で民主党を妨害しないとアメリカ政府が約束したなら、選挙後に来るのは、小泉内閣時代の軍事同盟の再来だろう。
 これが国防の現実なんだと思う。



 日本がアメリカの傘から出て自立するには、核軍備し、軍事衛星を打ち上げ、原潜を建造するしかない。
 しかし、そうしたところで、やっぱりアメリカとの軍事同盟は必要だ。100億円の戦闘機を500億円で売りつけられる霊感商法みたいなまねをされても、いまさら自立した作戦行動ができる軍備を構築するよりは格段に安い。もともと自衛隊はアメリカ政府高官を警備するために発足したもので、アメリカから自立した軍備にしようなど夢にも思ったことはないのだ。

 沖縄を日本一豊かな地域にする方法はいろいろある。米軍のために使っている金の1%でも十分にできる。昔から言われているように、沖縄をタックスヘブン(避税地域)にするのもいいと思う。世界最強の海兵隊が守っている島を世界一の避税地域にしてしまったら面白いじゃないか。
 それはともかくも、よくもあしくもアメリカと対等な取引きができる政権でないと困る。別に国防問題をマニフェストに書かなくてもいいが、参院選後の政権が、アメリカとどんな国防交渉をはじめるのか、ちょっとは気にしてもらっていいと思う。

 次回は少子化について論じたい。

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渋柿庵主人