I-Method

渋柿庵日乗 四二


何かが少しは変った週末の雑感

2010年7月13日
 この週末にはいろんなことが同時にあった。
 参院選は民主党が自滅的な大敗に終わり、自民党がやや復調した。私の予想より民主党が負けすぎだった。選挙のための俄新党は小気味がいいほど全滅し、長男格のみんなの党の一人勝ちになった。新党の結果はほぼ予想どおりだった。
 でも、自民党やみんなの党に何かを期待したわけではなく、民主党には投票したくないというだけの期待なき選挙だった。政権党が右往左往するところが見たかっただけだったという感じすらする。
 反米の鳩山と小沢が降ろされ、親米の菅首相になった時点で、もう民主党の命運は尽きていたように思う。
 国際政治の舞台で、日本の国益をはっきり主張できる首相を出せない政権党を支持する理由はないが、菅内閣を総取っ替えしたところで、もっといい手札になるとも思われないから、現職の公務員として他の選択肢がないという理由で、それでも私は菅内閣を支持する。

 内政は政権党がどこであろうと、官僚に任せておけばプラスマイナス2%の範囲で現状維持はできる。官僚はよかれ悪しかれ現状維持のプロだ。しかし、国際会議の表舞台に立てるのは政治家だけだ。内政は官僚任せでかまわないから、外交こそ政治主導でやってほしい。反米がいいとも思わないが、とにかく外交の軸のあった鳩山と小沢が降りてしまった民主党には、もうほとんど外交力がない。今回の参院選でその命脈すらも絶ってしまった国民は、致命的な自殺点を入れたのではないかと思われてならない。



 ワールドカップ決勝戦は、パス回しが美しいスペインが勝利した。ドイツに勝ったときに、スペインが優勝するだろうと予想した人は多かったと思う。ドイツ戦は無理して生中継で観た。決勝戦は週末の疲労が残っていて観られなかった。
 敗退した南米のチームには、リーガ・エスパニョーラ(スペインリーグ)など、ヨーロッパのリーグで活躍しているスター選手が多い。アルゼンチンのメッシとイグアインはリーガ・エスパニョーラの得点王と2位だ。今回のワールドカップは、終わってみれば、リーガ・エスパニョーラのための大会だった。



 疲労が残ったのは、土曜日に長距離のドライブにでかけたせいだ。
 最初に向かったのは、群馬県の川場温泉。とある産廃業者が経営するホテルが今春にオープンしたので、視察のつもりで出かけた。

 いきなり東北地方の古民家の小集落のような宿泊棟の連なりが、美しい田園風景の中に現れた。大きな古民家1棟を2部屋にふりわけて使い、4棟で8部屋しかない贅沢なホテルだ。新規の木造ホテルは、たいてい防災上の理由で消防法の許可が出ないのだが、一階を鉄筋コンクリートの土台を兼ねた公共スペースにして、二階に古民家を移築するハイブリッド構造にすることで、防災性を高めている。耐震性の高いカート用通路が災害時の避難路になるので、許可になったのだろう。
 驚いたのは外観だけじゃなく、内装にも古家具をおしげなく使った贅沢な部屋だった。骨董品蒐集が高じて古民家を一棟買いしてしまい、それがホテル経営へと発展したらしい。こうしたコンセプトのホテルとしてはここが2軒目で、最初の薬師温泉は、いまやテレビの温泉番組でもたびたび取り上げられている有名ホテルだ。そこにも一昨年に行ったが、外国人や有名人の来訪が多いのがうなずける隠れ里のようなホテルだった。

 産廃業者が、レストラン経営など異業種に参入する例は珍しいことではない。これまでにもフレンチレストラン、造酒屋直営の居酒屋、焼肉店、ジュエリー店などに行ったことがある。
 産廃業者の異業種多角経営をシリーズとして紹介してみたいと思うので、ぜひ、あの会社(うちの会社)がこんなことやってるよという情報をお寄せいただきたい。



 帰り道というより寄り道で長野に向かい、軽井沢のプリンスショッピングプラザに寄った。4、5回は来ていると思うが、アウトレットの元祖だけのことはあって、何度来ても飽きない。ちょうど夏のセールが始まったばかりで、たいへんな人出だった。
 アウトレットモールはとても成功したビジネスモデルになっているが、大半が外資系の不動産投資会社の運営である。たとえばチェルシー・ジャパンは、御殿場をはじめ8つのチェルシー・プレミアム・アウトレットを運営しているが、本社は世界最大のアウトレット開発会社だったチェルシー・プロパティ・グループだ。そのチェルシーも、数年前にはサイモン・プロパティ・グループの傘下となっている。
 世界の鉱物や穀物が少数のメジャーに独占される時代になっているが、アウトレットモールでも世界寡占が進んでいるのだ。
 各国の複雑な不動産法や金融法をものともせずに世界寡占を進めて行くアメリカの不動産投資会社のパワーには驚くばかりだが、裏方では政治家と金融家と法律家がプロフェッショナルなチームを組んで、綿密な市場調査を行い、各国政府へのロビー活動を展開しているに違いない。
 不動産バブル崩壊でダメージを受けたアメリカの不動産投資会社だが、世界戦略はなお拡大を続けている。ターゲットはアジアだ。



 政治倫理ということで、個人や企業の露骨な利益誘導を政治家の禁じ手にすることに異議はないが、国益の誘導まで禁じ手にしてしまったのでは、政治家の存在理由がなくなってしまう。
 民主党の十八番になった政治主導だが、脱ダムとか高速無料化とかではなく、こうした世界戦略に主導権を発揮してもらいたいものである。たとえば中国で負けた日本の新幹線だが、いったん決まっていたベトナムでも負けてしまった。しかし、時速400キロでも安定しているパンタグラフなどの最先端の要素技術では、日本の新幹線の技術が応用される(パクられる)に違いないのである。
 政治主導という言葉の響きはいいが、その成果が事業仕分けで丸の内の宇宙博物館(JAXA情報センター)の閉鎖というのでは、家計簿並みにスケールが小さすぎるんじゃないかと思う。
 新幹線の売り込みは、民主党も自民党も政策に掲げているが、マニフェストに書いて終わりのお題目じゃなく、国交相や首相が自ら現地に行ってトップセールスをしてくれないと意味がない。ベトナムが新幹線計画を勝手に白紙撤回したとき、首相は何かやろうとしてたんだろうか。トップセールスが上手にできないとジリ貧になるのは、会社でも国家でも同じだ。

 何も変らないように思えても、少しずつ何かが変っていることを感じないでもない週末だった。それがよい方向への変化であることを望むばかりだ。
 昨日までなかったものが登場すれば進歩を感じ、待っててよかったと思う。新しいものはiPadばかりじゃない。
 今回は珍しく写真を掲載する。

 古民家の集落のような川場温泉の全景と、本物のアンティークを配した客室

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渋柿庵主人