I-Method

渋柿庵日乗 四六


環境ビジネスウィメンの提言

2010年8月6日
 アカデミーヒルズ・ライブラリーカフェ(六本木ヒルズ49F)で、(社)環境ビジネスウィメンが主催した「未来につながる政策への提言シンポジウム」と大上段のタイトルをつけたイベントがあった。普通ならずいぶん上目線なと感じるところだが、女性が主催だとわかっていると、どんなに偉そうでも不思議と嫌味がない。
 環境分野で活躍する女性のパワーを結集しようと、小池百合子環境相時代から始まった懇談会「環境ビジネスウィメン」がいまも続いており、民主党政権になった今年も、あらたなメンバーが委嘱されたというから、驚きだ。

 現・前・元の3人の環境相、コマツの社長、森ビルの副社長など、そうそうたる来賓(兼コメンテータ)の挨拶に続いて、14人のウィメンのメンバーが短時間のリレー発表をした。
 一人の話者が基調講演で長時間しゃべり、その後、数人の話者がパネル討論するというのが、シンポジウムの一般的な形式だが、これを面白いと感じる人はほとんどいないだろう。とくにパネルはつまらないことが多いので、基調講演だけで帰ってしまう人が少なくないのが相場だ。
 その反省もあってか、5分程度の短時間のプレゼンを連続させていくシンポジウムが最近ちょっと流行のようである。一つ一つの話題は時間が短くてわかりやすいとは言えないのだが、全体としての情報量は相当なものになる。興味があった話題は、あとで話者に直接聞くか、自分で調べてみればいいのだし、興味のない話題も5分我慢していれば終るので、いねむりしているほどの時間はない。話題が多彩な環境系シンポジウムには向いているやりかただと思う。

 クライン・ダイサム・アーキテクツをご存知だろうか。この外資系の建築デザイン事務所が日本ではじめた「ぺちゃくちゃないと」は、スライド20枚×20秒=400秒という枠をはめてリレープレゼンを行う。非常にスピーディーでスリリングなイベントになるので、新しいシンポジウムの形式として、たちまち世界中に広まったそうだ。とくに建築系、デザイン系のイベントで多用されている。外国人の発明ではあるが、日本発だというところがうれしい。
 この日のビジネスウィメンのシンポジウムは、20秒×20枚という枠こそはめていなかったが、結果としては「ぺちゃくちゃないと」に似た感じの、とてもスリリングなイベントになった。情報量も豊富で、多くの参加者が満足した様子だった。

 前半は、まさに女性起業家(ビジネスウィメン)という名にふさわしく、身近な生活上のもったいないという問題意識を環境ビジネスモデルへと発展させている方の起業のお話が多かった。
 後半になると、古参のメンバーが登壇し、直接的な起業のお話ではなく、それを支援する金融や政策の仕組みが話題の中心になっていた。その提言の完成度が驚くほど高く、なまじな学者が赤面するほどハイレベルだったのにびっくりした。ビジネスウィメンの活動は発足時から注目してきたし、イベントにも何度か参加してきたが、最近のめざましい進化に嫉妬すら覚えた。
 とりあげられていた話題を一つ一つここで説明することはできないが、この日のシンポジウムの内容は、近日HPでアップされるそうだから、ぜひ目次だけでもご覧になってみてはどうか。http://www.herb.or.jp/



 「未来につながる政策への提言シンポジウム」というタイトルからわかるように、経済が低迷している日本をどうやって復活させるかということが、この日の基調のテーマになっていた。
 そのキーワードは「環境」と「女性」なのだと、司会者や政治家が、ご祝儀的な挨拶の中で力説されていた。だが、私はシンポジウム全体の流れの中で、「起業」、「田舎」、「衣食住」の3つがキーワードなのかなと感じた。
 大企業が需要と労働力を求めて海外に出て行ってしまう流れはとまらない。しかし、起業、田舎、衣食住は国際化と無関係ではないものの、国内に雇用を生み出し続ける。
 この3つを環境ビジネスという大きな括弧の中にくくり、それぞれに時代をつければ、

 環境ビジネスの時代(起業の時代、田舎の時代、衣食住の時代)

となる。これが、この日のシンポジウムで私が受け止めたビジネスウィメンの未来への提言だった。

 環境を守るというのは、CO2削減25%のコンマ以下の数字を競うことではないだろうと常々思っている。守っている環境の恩恵にあずかるということでなければ意味がないし、話題としてもビジネスとしても長続きしない。環境の恩恵は田舎にあり、衣食住にある。そこを切り口に小さくても一つ一つ意味のある起業を積み重ねていくことが、環境ビジネスの時代を拓くのだと教えてもらった気がした。

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渋柿庵主人